皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
[ 本格/新本格 ] オリンピック殺人事件 |
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南里征典 | 出版月: 1982年10月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 2件 |
講談社 1982年10月 |
No.2 | 5点 | nukkam | 2024/02/10 22:58 |
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(ネタバレなしです) 南里征典(なんりせいてん)(1939-2008)は新聞記者出身の作家で300冊近い作品を残した多作家です。官能サスペンス系が多いようですが、人並由真さんのご講評で1982年発表の本書は本格派推理小説と紹介されているので読んでみました。作中時代は1964年、東京オリンピックの開会式の日に警視庁へ殺人予告の電話がかかります。予告通りに殺人事件が起き、しかも密室殺人です。鍵のトリックぐらい何とでも考えられると警察は甘く見ますが捜査が進めにつれ不可能性は強固になり、ようやく重要容疑者を絞り込むと今度はアリバイの壁が立ちはだかります。鮎川哲也の鬼貫警部シリーズもかくやといわんばかりの丁寧なアリバイ崩し、さらには太平洋戦争末期の捕虜生活の物語へと意外な展開で読ませます。密室トリックは使われた小道具こそ違うものの本書と同年に発表された某作家の某有名作をどこか連想させますね。殺人予告にもちゃんと目的があるのですが、これはいくらなんでも幸運を当て込み過ぎではという気がします。 |
No.1 | 5点 | 人並由真 | 2019/08/30 03:02 |
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(ネタバレなし)
1964年10月10日。「東京オリンピック」こと第14回オリンピック開幕の当日、警視庁捜査一課のベテラン刑事、野村省三は、ある匿名の電話を受ける。それは「杉並区の58歳の男性・日沼潤作をこれから殺す」という殺人予告だった。悪戯かと思いながら万が一の事態を考えた野村は、部下の刑事や所轄の捜査陣とともに匿名電話が告げた日沼家の住所に向かう。日沼は最近、倒産の危機に瀕している大手マンション開発販売会社の社長だった。すると電話の予告通りに自室内で日沼が刺殺されており、しかも現場は完全な密室状態だった。やがて捜査の結果、日沼が東京オリンピック開会式に使われる伝書鳩を提供する組織「日本レース鳩連盟」の関係者であったことが判明。そして被害者の周辺から強力な動機を持つ容疑者が浮かび上がってくるが、その人物には鉄壁かと思える三重のアリバイがあった。 作者・南里征典は、国際冒険小説からエロバイオレンスノベルまで幅広い創作活動を示した職業作家。それで本書『オリンピック殺人事件』は1982年に書かれた、作者の経歴中でも珍しいパズラー系の著作である。 (ところで、この本の裏表紙の作者紹介の項目で「代表作に『未完の対局』がある。」と書かれているのって、なんか悲しい。だって書籍版『未完の対局』って、いくら有名な映画タイトルの小説版とはいえ、作者のオリジナル原作じゃなくてノベライズだよ。オリジナル作品をその時点で何冊も書いているプロ小説家の代表作に、他人の原作作品のノベライズが挙げられる例って初めて見た……。) なんかwebなどでこの作品『オリンピック殺人事件』を、あまり話題にならない隠れた佳作・秀作みたいに語っている人がいるので興味が湧いて読んでみたが……う~ん、どうなんだろ。 密室殺人に始まる連続殺人劇だが、中盤の趣向は、捜査陣がある人物に狙いを定めた上でのアリバイ崩し。しかしてその後……(中略)!? こう書くとけっこう面白げなネタを複数盛り込んだサービス作品のようであり、実際にそういう長編ミステリではあるのだが、一方で作品の作りが結構オフビート(調子っぱずれ)。 後半、事件の背景となる太平洋戦争中の秘話に話が跳ぶのはいいが、頼みもしないエロ要素が噴き出してくるし、序盤からそれっぽく用意されていた登場人物は扱いを忘れられるし、ノープラン感がすごい。 まあ序盤から登場していた大きな主題のひとつ(表紙のイラストにもなっている)伝書鳩がちゃんとミステリとして意味を持つのはいいが。 (しかしこの密室トリック、なかなか豪快だけど、実際のところの実現性はかなり低いのでは?) アリバイトリックもなあ。三段階に重なったアリバイの鉄壁性を際立たせて読者をワクワクさせるケレン味は、鮎川作品ばりでとてもいい。 しかし少なくとも葉書のトリックは、この作品の数年前に描かれた某・少年向け漫画からのモロ戴きだよね? 作者は読者層が違うからバレないだろうと甘く見ていたのかもしれないけれど、テレビアニメ化もされて幅広い世代のファンに21世紀の現在でも広く読まれている人気コミックだから、こうやっていつかパクリは露見する。 (まあ偶然の暗合の可能性もゼロとは言えないし、もしかしたら双方の作品よりさらに先駆の例があるのかもしれませんが)。 あと事件のややこしい部分を、終盤に表に出てくる某キャラクターの奇人性に相当に押しつけて、こんなおかしなイカれたいびつな人物だから、ああいうヘンな事をやったんですよ、と言い訳してるのもちょっと……。 なんか悪口ばっか書いてるけど、白紙の状態でもし出会って読んでいたら、もうちょっと褒めたかもしれない。ごく一部とは言え、ミステリファンの間で評判がよさげなのに色々とアレでコレかよ、という意味合いで評点はきびしくなり、この点数ということで。 最後に、本作の読後にWikipediaで初めて知りましたが、この作者ってあの大下宇陀児の門下だったそうですな(!)。今度ほかの作品を読む際には、その興味も踏まえながら手に取ってみよう。 |