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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
ファラオ発掘
ジョン・ラング 出版月: 1980年04月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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早川書房
1980年04月

No.1 6点 人並由真 2019/07/07 15:36
(ネタバレなし)
 シカゴ大学に在籍の考古学助教授で、41歳になるハロルド・バ―ナビーは、古代パピルスを独自に解読。定説となっている学識が誤りで、実はまだ未発見のかなり大規模なファラオの古墳がエジプトの砂漠のとある地域内に確実に埋もれていると探り当てる。新発見を大学に正直に申告しても正教授の待遇を得るのみで、さらに自分を社交性もない本の虫と蔑んだ大学の名をあげるばかりと思ったバーナビーは、独自に非公式な発掘チームを組織し、本来はエジプト政府の国庫に入るべき古墳内の財宝を盗掘する計画を企てた。スカウトしたル青年ポライターのロバート・ピアスが人脈を駆使し、スポンサーとなる好事家の大富豪、プロの盗賊、さらには考古学を少しは齧った肉体派の男……たちのチームが編成され、古墳の秘密の捜索が開始される。だが作業は随時エジプト公営博物館の遺物局の査察を受け、チームは金銭的な価値のないあくまで学術的な探求を装いながら発掘を続けるが……。

 1968年のアメリカ作品。マイクル(マイケル)・クライトンがジョン・ラング名義で書いた初期の長編(これとジェフリイ・ハドスン名義で執筆のあの『緊急の場合は』が68年作品で、どちらかが通算3冊目でまた4冊目)。ラング名義の作品としては3冊目にあたる。

 評者が以前に読んだラング名義の作品では初期の某長編がとんでもないボルテージのセックス描写のポルノ・ミステリーだったので、今回もそういうのを少なからず期待したが(笑)、意外にも本作では実質的な主人公となるピアスとスポンサーの大富豪グローバー卿の秘書リザ・バレットとの間に芽生える、昭和40~50年代の日本の少女漫画風の不器用な恋愛模様が描かれるだけ。
 昭和の父親が女子中学生の娘に読ませても全然問題がないような内容で、その極端さに驚いた。クライトンってアメリカの笹沢佐保か。

 クライトン名義の作品はA級ランクの重量級作品、ラング名義のものは軽スリラーといった認識が自分をふくめて一般的にあると思うが、少なくともこれはそれなりにエンターテインメントとしての読みごたえがあった。
 エジプト現地の観光的な描写、かなり資料を読み込んだのであろう考古学的な蘊蓄(21世紀現在の時点でいまもどれくらい正確で的確な叙述かはわからないが)、そして犯罪・ミステリ的な要素はほとんどうっちゃって(物語の主な事件的な要素といえば、主人公チームがエジプト政府の目を欺いて盗掘することくらい)ひたすら発掘の作業を丁寧に描くだけ……なのだが、これが実に面白い。クライトン(ラング)って、やっぱり本物の職人作家だったのだなあ、と改めて感入った。大きく四部に分かれた小説本文の筋立ても巧妙で、そこそこの長さの作品ながら中断できず、一気に一日で読み終えた。
 主人公チームの挫けない奮闘ぶりは本気で応援したくなるのだが、一方で確かな犯罪でもあり、どう決着するか……はもちろんここでは言えないが、最後にはすごく気持ちよくページを閉じ終えられた。筆の達者な創作家が才気で書いた作品って必ずしもスキになれないこともよくあるが、今回の場合はその職人的な手際そのものにある種の感興を覚える。とてもよくできた、ちょっとハモンド・イネスみたいな作風に限りなく接近しながら、それでもギリギリの部分でどこか違う、どんな一冊。


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