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[ クライム/倒叙 ]
追跡―チェイス
リチャード・ユネキス 出版月: 1974年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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すばる書房
1974年01月

No.1 6点 人並由真 2019/06/08 20:03
(ネタバレなし)
 その年の7月。シカゴの一角の農業地帯の側で、大手チェーンストアを狙う強盗事件が起きる。実行犯の2人の若者、計画立案者のフロイド・レイダーとその相棒で超一級の運転テクニックを誇るグロッツォのコンビは、奪った大金を乗用車に積んで逃走。二百マイルに及ぶ農作地帯に逃げ込む。丈の長いトウモロコシ畑が密生するそこは、天空から見れば大きなマス目状に区切られたチェス盤のような様相を呈していた。ハイウェイ・パトロール隊の指揮官・ブリーン警部補は、車を乗り換えながら巧妙に逃亡を図るレイダーたちの追跡を開始。ブリーンは前歴である海軍大佐としての戦術を捜査にも応用し、十数台のパトカーさらにはヘリコプターまで動員して賊の捕縛を図るが……。

 1962年のアメリカ作品。邦訳は、ピーター・フォンダ主演の映画化作品『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』が1974年に公開(日本でも同年10月に封切り)されたのにあわせて当時のミステリ&SF翻訳誌「(旧)奇想天外」の初期号に連載されたのち、それをまとめる形で書籍化された。
 ちなみに翻訳担当の野村光由はかの小鷹信光の盟友だったが、若年のうちに早逝。後年の小鷹のいくつかのエッセイなどの中にも、何度か本書とこの人の話題が出てきていると思う。

 翻訳書は、ハヤカワノベルズ(ソフトカバー・一段組)の仕様とほぼ同一(先行する叢書の造形をスタンダードなものとして、それに倣ったのだと思う)。総頁は200頁弱と紙幅はそんなに厚くはないが、その本文が全部で43章とかなり細かく分割され、メチャクチャテンポがよい。というか、リズム的にかえって読みにくさすら感じないでもなかったが、その辺も含めて独特の乾いた作風になっている。
 作者がやりたかったことは、普通車の車高なら隠しうる高さの農作物に覆われた地上での、一種の対・潜水艦戦のバリエーションのようであった。
 実際にはそれほど数多くの捜査上の戦略が導入されるわけでもないが、狙いとしては、山田正紀の初期の佳作『謀殺のチェス・ゲーム』の<ステラジズム理論>を想起させる部分もある。

 いかにも<当時の読み捨てペーパバックの中で個性を発揮した一作>という読み手の勝手な印象が芽生えそうな作品という気もするが、実際には原書のオリジナルは当初はハードカバーで出ていたようで(ウォーカー社)、当時の新人作家としてはそれなりに評価・期待された好待遇の一編だったのだろう。
 少しのちの「悪党パーカー」などの先駆となるドライなケイパー小説としての風格もあり(バイオレンス描写はほとんど無いが)、読んでる間のテンションは高い。一方でラストは(中略)だが、それもまた作者の意図したところだろう。小説の評価は7点に近い6点ということで。
 
 ちなみに本作の場合は大昔に先に映画版を観ているが、そちらで印象的だった主人公トリオの一角のヒロイン(タイトルロールのメリー)が実は原作小説に登場せず、まったくのオリジナルキャラクターだったのを今回あらためて知った。余談ながら、映画のラストは長い時を経た今でも記憶に鮮明で、あれはあれで映像化の脚色として良かった……とは思う。


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リチャード・ユネキス
1974年01月
追跡―チェイス
平均:6.00 / 書評数:1