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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 裏切りの空 |
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ハーマン・ウォーク | 出版月: 1987年03月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
徳間書店 1987年03月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2019/05/16 03:01 |
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(ネタバレなし)
1944年8月6日。歴戦の戦闘機乗りである海軍中尉ウィラード(ウィル)・フランシス・スラッタリーは、自分が操縦する戦闘機で日本軍の軽巡洋艦サガコを撃沈するが、その手柄を卑劣な上官ラインハルト中佐に横取りされる。すっかり海軍に嫌気がさし、愛国心も失ったスラッタリーは、戦後はホテルマンを経て製菓企業の経営者であるミルン老人に雇われ、小型機の貨物パイロットを務めていた。そんなスラッタリーを慕うのは、ミルンの秘書かつ折衝役の娘ドロレス(ドロー)・グリーブズ。スラッタリーはぬるま湯的な状況の中に居心地の良さを感じていたが、ある夜、戦時中の無二の戦友フェリックス・ホブスン(ホビー)に再会。彼は現在も海軍に所属して気象観測チームに従事し、しかもその上官はかのラインハルトであった。さらに事態をややこしくすることに、スラッタリーはホブスンの愛妻であるラテン系美女の歌姫アギーに惹かれてしまう。かたやアギーもまた夫を愛しながらも、男臭いスラッタリーに魅せられていく。そんななか、ホブスンの気象観測チームの調査対象の海域に、未曾有の規模の巨大ハリケーンが発生しようとしていた。 解説によると1948年に書下ろされた米国作品だが、本書巻頭のコピーライトは1956年になっている。作者ハーマン・ウォークは『ケイン号の叛乱』『戦争の嵐』の二大メジャー作品で日本でも著名だが、本作は20世紀フォックスのリチャード・ウィドマーク、ヴェロニカ・レイク主演映画の企画のためにそのウォークが当初から映像化を見越して著述した作品らしい。 邦訳版の帯にも巻末の解説にも「航空冒険小説」と銘打ってあるが、実際にその興味で読むと高空を舞台にした冒険要素はそんなに多くなく(航空シーンそのものはそれなりにあるが)、むしろメインキャラ4人の男女の愛情四角関係とパイロット同士の友情ドラマの方で読者の興味を引っ張る作り。肝心の映画は日本未公開のようで評者も未見だが、たぶん出来ていたものは飛行機のシーンよりも人間ドラマに重きを置いた作りになっていたと思える。 1950年代のアメリカ庶民派っぽいモラリティとメロドラマの方は心地よいが、一方で、マトモな手柄を立てた主人公ではなく小狡い上官に勲章をやってしまった海軍の上層部(戦時中のお偉いさんで今は前線を退いた提督)が戦後になって自分から過ちに気がつき、主人公を改めて表彰する描写は、『ケイン号』の作者ウォークらしい一回ひねりの軍隊ヨイショっぽい。もしかしたらさらに深読みすれば、海軍のいい加減さを揶揄していたのかもしれないが。 1970~80年代にテレビの深夜劇場でたまたま観た50年代の白黒映画がなかなか楽しめた……的な感じで、読んでいる間は心地よい感触もあったんだけど、前述の通り航空冒険小説としては薄いので(クライマックスも実際にハリケーンの中を飛んでいるスラッタリーの方にカメラを合わせず、地上の面々の方ばかり描写する。ここらもいかにも、映画撮影の都合を考えた感じ)、最後まで読みおえた瞬間に、それまでは一旦は盛り上がっていた高揚感とこの作品への評価が、自分のなかでかなり落ち着いた。 (ただしネタバレになるのであまり言わないようにするが、ハリケーンに挑む冒険小説要素以上に、もっと通常のミステリ、クライムストーリーっぽい部分も一応は用意されている。) なお邦訳の114頁、アギーとの許されない恋に悩むスラッタリーが眠れないので就眠儀式用に『戦争と平和』を手に取るが、結局は眠気が襲ってこないで、以前に読んだ時よりもずっと興を覚えてしまい、4日間で完読。その結果「レイモンド・チャンドラーなんかより、ずっとわくわくさせるぜ」とほざくのには大笑いした。本書がもし1948年に書かれていたのなら、スラッタリーは第四長編の『湖中の女』(1943年)までは読んでいたかもしれない。んー『かわいい女』(1949年)って、先行で雑誌に掲載・連載されたんだっけ? もしそうならソコまでは目を通していた可能性はある。 |