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[ パスティーシュ/パロディ/ユーモア ] 名探偵登場 |
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ニール・サイモン | 出版月: 1976年09月 | 平均: 5.00点 | 書評数: 1件 |
三笠書房 1976年09月 |
No.1 | 5点 | クリスティ再読 | 2019/05/14 22:25 |
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「影なき男」のやりついでで本作。5人の名探偵たちが100万冊のミステリを読破したミステリ・マニアの大富豪の招きに応じて館に到着した....ハードボイルド派探偵サム・ダイヤモンド、イギリスの田舎に住む老嬢ミス・マーブルズ、カタリナ島警察の中国人警部シドニー・ワン、ベルギー人で美食家、口髭と卵頭がチャームポイントのミロ・ペリエ、犬を連れた小粋な都会派探偵夫婦チャールストン夫妻。盲目の執事やら落下する石像の奇怪な歓迎のあと、晩餐の場に登場した招待主は深夜12時に殺人が起きることを予告して、名探偵たちに挑戦した....
はい、本作パロディですよ。本サイトでは説明不要な名探偵たちだが、ビッグネームに伍して「影なき男」のニック&ノラ・チャールズ夫妻が加わっているあたり、「影なき男」の映画界への影響の大きさが窺われようものだ。喜劇大得意のニール・サイモンのオリジナル・シナリオによる映画(1976)から、ヘンリー・キーティング(判るよね?)がノベライズしたものが、映画の公開に合わせて出ている(訳は小鷹信光)。まあだから、読んでから見る。 ....小説として読むと、意外につまらない。しかしねえ、映画にすると実に小洒落たナンセンス映画で素晴らしい。なんせ出演者が凄すぎる。謎の大富豪は作家のトルーマン・カポーティ(狂ってる)、執事はアレック・ギネス(渋すぎる)、サムはピーター・フォーク(うさんくさすぎる)、ワン警部はピーター・セラーズ(西洋人に見えん)、デヴィッド・ニヴン(パウエルの代りをできるのは二ヴンだけだ)、エルザ・ランチェスター、ジェームズ・ココとまあ、大名優大怪優揃えまくって、バカなことをしまくるこの豪奢さが、かぎりなく愛おしい。小説で読むにはタダのナンセンスだが、映画で見たら「凄いギャラ貰って大バカしている」壮大な無意味さに賛嘆するしかないんだよ。この無意味さがまさにかつての映画にあった輝きだ。いいな、素敵だな。 それでもね、本作はそういう愛すべき名探偵たちに対する逆説的な賛辞でもあるのだ。 諸君は長い間 才知におぼれすぎ慢心したのだ/長年にわたり読者をだまし/どんでん返しでバカにしてきた/最後の5ページで初めて犯人登場とは何だ/手掛かりも情報も隠しぬき/誰が犯人か推理させない だが今や形勢逆転/100万の怒れるミステリー読者が復讐するのだ/私が諸君をカモったと知れたら/諸君の本など二束三文のたたき売りだ とこれも一種の「真犯人は読者」の作品なのだよ。だからこそ、小説の最後ではキーティングが愛すべき名探偵をもう一度ヨイショする。 なんという連中だ!おかげでまた推理小説を読みたくなってきたではないか。偉大な名探偵たちに、神の祝福あれ! |