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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
キャナンザの熱い風
アントニイ・トルー 出版月: 1977年03月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1977年03月

No.1 7点 人並由真 2019/04/19 17:27
(ネタバレなし)
南アフリカのザンベジ渓谷の周辺。そこに野生動物や無数の草木が荒れ地を縫うように密生する特別保留地キャナンザがあった。30歳の赤毛の白人「ルーファス(赤毛)」ことジョン・リチャーズは、行政公認の管理官代理として野生の動物たちや太古からの自然を守るが、最近この周辺では革命ゲリラ闘士、政府から見ればテロリストの武装グループの活動が著しかった。そんななか、40年以上の人生を鉱脈探しに費やしてきた老人ルーダ・マクガンは有望な金鉱の兆候を見つけるが、一方で同地にはヨハネスブルクの鉱山会社の重役ロディ・フィスクが来訪し、マクガンはせっかくの獲物を横取りされまいかと緊張する。いずれにしろ、万が一この周辺でどのような経緯にせよ大規模な発掘作業が開始される事態は、自然保護の観点からリチャーズにとってかなり好ましくないことであった。やがてある日、キャナンザの大地の上で人命を奪う銃声が轟き……。

 1970年の英国作品。著作の主流は海洋冒険小説である作者アントニイ・トルー(日本でも何作か紹介されている)には珍しい、内陸を舞台にした作品。中身は、半ば自然派の冒険小説、半ば殺人事件がからむ正統派? ミステリ風。そんな一冊。
 なおザンベジ渓谷(ザンベジ川)は実在するが、キャナンザは架空の地名らしい? webで何回か検索しても、本書の邦訳名以外出てこないので。

 最終的にどういうジャンルに着地するかも興味とも思えるのでここでは詳述はしないが、ミステリを楽しむストライクゾーンが広い(つもりの~笑~)評者には面白かったが、人によっては何らかのミステリジャンルの物差しから中途半端に思えるかもしれない。
 いずれにしろ登場人物が全体的にくっきりとキャラ立ちして(設定的に奇人や変人が登場するのではなく、作者の筆力で存在感を抱かされる手応え)、さらに人間に対して時にきびしく時に懐の深いアフリカの自然描写も一種ドラマチックに語られている。それらすべてをふくめて、ミステリを内包した一編の小説として快い作品だった。最後の幕切れも、いかにも文芸ミステリっぽい余韻が残る感じでステキ。

 ちなみに評者は関東在住の人間で、この10年ほど全般的に四季の感覚が変化し、1年のうちの春秋の季節感が希薄化。おおざっぱに言って、冬が終ったら早くも初夏のような肌感覚である。そういう意味でこの四月でももう結構暖かいのだが、そういうシーズンに読むにはピッタリの一作だった。本当の真夏に読んでいたら(冷房のある場で読むにせよそうでないにせよ)なんかいろいろ余計なことを考えちゃいそうな、そんな熱い(暑い)世界を舞台にした物語だから。


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アントニイ・トルー
1977年03月
キャナンザの熱い風
平均:7.00 / 書評数:1