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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
この荒々しい魔術
メアリー・スチュアート 出版月: 1969年01月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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筑摩書房
1969年01月


1969年01月

筑魔書房
1977年11月

No.1 5点 クリスティ再読 2019/03/01 00:23
ジブリ系アニメの「メアリと魔女の花」の原作、ということもあって、時ならぬ紹介がされたメアリー・スチュアートなんだけども、この人CWAでもシルバーダガー獲ってるミステリ作家である。けども日本の紹介はあまりちゃんとされているとは言い難い。筑摩書房「世界ロマン文庫」で読んだのだが、このシリーズ、クラシックなスパイ小説がメイン?という狙い所がよくわからないシリーズで、アンブラーの「墓碑銘」とかバカンの「緑のマント」とかグリーンの「恐怖省」は珍しいわけではないが、イネスの「海から来た男」とかチルダースの「砂州の謎」とかがレアである。その中に本作みたいな女性向けロマンス小説withスリラー、という作品も含まれるわけだ。
本作はタイトルからそうなのだが、シェイクスピアの「テンペスト」が下敷きになっている。クリスティでも晩年の「ハロウィーン・パーティ」が「テンペスト」下敷きの作品だしシェイクスピアでも大名作の一つだから、イギリス・ミステリを楽しむ上での必須科目くらいに思って読んでも損じゃないと思うよ。まあ本作、テンペストの島のモデル?とされるギリシャのコルフ島が舞台。宮崎駿のネタ元であるオデッセイアのナウシカアの話もこの島らしいや。この島に結婚して住む姉を頼って、バカンスに来たイギリス人女優の主人公が、引退したシェイクスピア俳優とその息子などの、島のイギリス人たちの間で、犯罪と恋に翻弄される、というような話である。まあおよそのんびりした話なので、イルカと戯れるバカンス気分で読むくらいが適切。後半は結構スリラーで、悪人のボートに犯罪の証拠を掴むために忍び込んで、殺されかけるとかあるのだが、あまりベタにヒーローに救われるとか、そういうものではない。ハーレクインなベタなロマンス・スリラーというよりも、各章の冒頭に「テンペスト」の一節が引用される、おっとりした古風で文芸風味のスリラー、といったくらいかな。丸谷才一訳、というのが何かそれっぽい選択な気がする。
読んでるうちはそう退屈するものでもないのだが、特に押し切れる内容があるほどでもない。ヒロインが主体的に冒険しちゃうのがまあ、いいところなのだが、自意識過剰すぎるのが読んでいてうるさくも感じる。タイトルがイイから昔から読みたく思ってた作品だが、それほどのものじゃなかった。残念。


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