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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
ローマの北へ急行せよ
ヘレン・マッキネス 出版月: 1967年01月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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講談社
1967年01月

No.1 5点 人並由真 2018/12/22 17:13
(ネタバレなし)
 1950年代。7月下旬のローマ。処女作の戯曲を大ヒットさせたものの、次作の構想に悩む29歳のアメリカ人新進作家ウイリアム・ラミター。彼の恋人エレノア・ハーレイはイタリアのアメリカ大使館の秘書官だったが、現在はイタリアの青年貴族ルイジ・ピロッタ伯爵に心変わりし、ついにはラミターを捨てて伯爵と婚約していた。くさる思いのラミターはその日の早朝、若いイタリア美人が路上で暴漢に襲われている現場にたまたま遭遇。彼女の危機を救った。ラミターに助けられた24歳の美人ロザーナ・ディ・フェオは後刻改めてラミターに感謝を述べ、そして思いがけない相談事を持ちかける。それはあのピロッタ伯爵に関わる重大な秘密と、その秘密の向こうに潜む国際的な謀略への対応だった。

 1958年のアメリカ作品。作者ヘレン・マッキネスは1930年代末から80年代まで活躍した当時の大物の女流エスピオナージュ作家。日本でも数作品が紹介されているが、この作品『ローマの北へ急行せよ』だけ、翻訳家があの梶龍雄のせいか古書価がべらぼうに高い。梶ファンにとって一種のコレクターズアイテムになっているのだろう。
 評者は大昔に、マッキネスの長編はどれだったか1~2冊くらい読んだ記憶があるが(もうその内容も、そもそもどの作品だったかも忘れているけど)、それなりに楽しめたような感触だけは覚えている。それで本作はまだ確実に未読のハズの一冊だったので、このたび気が向いて、借りて読んでみた。

 劇中で進行する国際謀略は、当時の冷戦時代を背景にした東側のとある大規模な計画。西側社会にもかなり影響のありそうな策謀なのだが、最初にこの情報を握った西側のスパイが一種のルーザー(落ちぶれて現在は二線級の人員)だったため、NATOの上層部は彼が持ってきた報告を不当に軽視。大局的に動いてくれず、仕方なく現場の有志情報員だけで対応することになり、その流れのなかで主人公ラミターも故あって協力を要請されるハメとなった。巻き込まれ型スパイ小説として、この設定はなかなか上手い。
 一方で女流作家マッキネスらしくロマンススリラーの味付けも万全で、元カノと新たに現れた美女スパイ、ふたりのヒロインに挟まれた主人公ラミター(まあ比重は××××の方に順当に傾いていくが)と、恋敵ピロッタ伯爵との対峙の構図にもちゃんと作劇上のポイントは置かれている。ラブロマンスエスピオナージュとしての仕上がりは、まあ納得といったところ(物語の序盤で元カレのラミターと婚約者のピロッタ伯爵が偶然に顔を合わせた際、この二人が自分の前では仲良くしてほしいと、さっそく都合のよいことを考えるエレノアの内面描写など、あー、達者な女流作家だな、という感じ)。

 邦訳書は全書判で本文230頁ちょっととやや薄めだが、二段組みで級数は小さめなため文字量はそれなりに多い。相応の枚数で挿し絵イラストが用意されているのは読みやすかった。本文とイラストの内容が必ずしも合致してないのはご愛敬。
 イタリアの名所探訪の興味を交えながらドラマの舞台をスピーディに切り替えていく筋運びは悪くないが、基本的に主人公側の追撃劇がやや一本調子で、ラミターと仲間たちを支援してくれる人々の立ち位置も潤滑すぎる辺りはいささか単調。つまらなくはないが、もうちょっといくつか仕掛けがあっても良かったかという思いも湧く。クライマックスを経てもう一幕あるのは結構だったが。


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ヘレン・マッキネス
1967年01月
ローマの北へ急行せよ
平均:5.00 / 書評数:1
ベニスへの密使