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[ 警察小説 ] 妖術師の島 |
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A・H・Z・カー | 出版月: 1973年01月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1973年01月 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2018/12/02 20:34 |
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1971年度MWA新人賞受賞作。けど作者はその時69歳で、この年に亡くなってるから、ちゃんと「受賞」したのかなぁ。「新人賞」だがぜんぜん新人じゃない、A.H.Z.カーの唯一の長編である。短編じゃEQMMコンテストの常連で、著名経済コンサルタント、トルーマン大統領の経済スタッフだったくらいの、超大物の非専業作家である。「ミステリ外業績」×「ミステリの業績」で考えたら、トップクラスなのでは、となるくらいの短編の名手として鳴らした人である。
なので本作も一筋縄ではいかない。舞台はアメリカ領だがカリブ海に浮かぶ黒人の島「セント・カロ」。モデルはアメリカ領ヴァージン諸島(プエルトリコの隣のようだ)ということになる。スペイン系のプエルトリカンもいるが、ネイティブは黒人たち、というわけで本作の主人公ブルック署長も黒人である。 この島はカリブ海地方で私生児の出生率がもっとも高く、犯罪の発生率はもっとも低い と紹介される、のどかな島である。主要産業はラム酒と観光。この島でアメリカ人が経営するホテルに滞在していた白人が殺された!その傍らには「島の義賊」として知られるモービーの手帳が落ちていた...ブルック署長はアメリカから派遣されてきた副知事に、モービーを捕えるよう厳命された。しかし署長とモービーは幼馴染でもともとは親友の間柄だった....義理と人情の板挟みの署長は、殺人の真相を解明できるか? という話。黒人署長が知性と人情を発揮する本作、だからデンゼル・ワシントンが気に入って映画にしたようだ。劇場未公開だがTVで放映したことがあるらしい。「島の義賊」というとそれこそウンタマギルーだが、そういうのんきさ、のどかさとユーモア感が漂う上出来の小説。推理もかなりマトモで、黒人署長の知性がダテじゃない。もちろんタイトル通り、「オービー」と呼ばれる島独特の呪術があって、これが謎解きと密接に結びついている。 地味だけどのどかに楽しめるナイスな小説である。カリブ海のリゾート気分を満喫できるが、それでも 一時は教育が何よりも大事だと思ったことがあった。学校をふやし、税金をアメリカの援助の中からもっと多くを教育につぎこんで、すべての子供たちがハイスクールを卒業できるようにすることだ。しかし、ある日考えた。どういう教育をやるのか? 今の子供たちは無知ではあるが、ビクビクもしないし、貪欲でもない。ところが、しばらくアメリカ式の学校に入れたら、合衆国の黒人の子供たちと同じように劣等感をもつ。そして貪欲になる。 と署長は述懐する。大統領の補佐をしただけのことはある、さすがの見識。 (さてあとカリブ海モノって...どうだろう「死ぬのは奴らだ」「ドクター・ノオ」か「新・黒魔団」かなあ) |