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[ サスペンス ]
レディ・キラー
エリザベス・ホールディング 出版月: 1958年01月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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東京創元社
1958年01月

No.1 5点 人並由真 2018/11/17 16:34
(ネタバレなし)
 独身時代は美人ファッションモデルだった23歳のハニイは、七ヶ月前に51歳の富豪ウィーヴァー・ステプルトンと結婚した。それは安定した裕福な人生を求めての結婚だったが、ハニイはちゃんと夫に尽くす良妻になるつもりでいた。だが結婚前はひとかどの紳士に思えた夫は、実は友人もなく、さらに金を妻に渡したり彼女のために散財することでしか愛情表現のできない無器用すぎる人間で、ハニイの心は冷えかけていた。そんな夫妻は各国を回る長期の船旅に出るが、船上でハニイは化粧品業界で成功した女性実業家アルマと、彼女の新婚の夫である美青年ヒラリー・ラシェル大尉と知り合う。やがて間もなくハニイは、ヒラリーから妻アルマへの秘めた殺意を認めるが……。

 1942年のアメリカ作品。有名なサンドーの名作表にも挙げられている長編だが、邦訳は創元の「世界推理小説全集」の一冊として刊行されたのみ。それ以降は創元文庫にもなっていない不遇の一作。
 自宅の書庫から未読の積ん読本が出てきたので、どんなのかなと、このたび読んでみた。

 わずかなきっかけから青年ヒラリーに疑心を抱いたハニイが、その思いを周囲の者と共有しようと試みても相手なりの思惑でかわされたり、信じて貰えなかったりする丁寧な叙述は、まあ悪くない。なんだかんだ言っても本当は一番頼りにしたい夫のウィーヴァーとも、どうも会話ややりとりがスレ違い、ハニイの焦燥が高まっていく。そんな流れも王道を踏んでいる。
 やがて船内で殺人事件が起きる? が、その直後に死体? が消失。ハニイをふくむ船上の乗客や乗員がさらにややこしい状況になっていくのも、良い感じの筋運びだろう。
 
 あと、女丈夫で敵を作りやすそうな年上の女アルマにある種の憐憫を覚えたハニイ(小説中にははっきり書かれないが、ハニイ当人は、きっとそういう己の余裕のある心情に優越感を覚えているのであろう)と、夫ウィーヴァーとの会話(本文P96)

「お前がどうして彼女と親しくするのか、わしには理解できない」
「あのひとは――ひとりぼっちなんですもの」
「そうでないものがいるのかね?」と彼は言った。「いったい、だれがひとりぼっちでないというのか?」

 が、とても印象的だが、本書の大きな主題のひとつはハニイのみならず、夫ウィーヴァーやその他の登場人物が抱える現代人の孤独の念であり、それを浮き彫りにするためにこのミステリ作品そのものもあるように思える。
 そう考えるとラストのある種のかぎりなく冷徹な決着も、ストンと了解できるものとなる。

 ちなみに本書の解説で中島河太郎は、ミステリの意外性としては弱い云々の主旨の感想を述べ、webのミステリファンのサイトなどでも同様の所感を拝見したが、個人的には最後の思わぬ真相になかなかうっちゃられた感じであった(ギリギリのページ数まで事件の底が割れない展開はけっこうスキ)。
 そのあとに続くのが、前述の少し苦めの、二重の結末だとしたらこれは悪くない。
 ただね、中盤で殺人? 事件が起きるまでが全般的に地味で起伏にとぼしいのが難。各章の最後とかがもう少しクリフハンガー的な盛り上げを図っていたらなー、同じプロットでも、あと数割は面白くなったと思う。嫌いになれない作品ですが。


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エリザベス・ホールディング
1958年01月
レディ・キラー
平均:5.00 / 書評数:1