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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
十二人の少女像
ロナルド・チャリス教授
シェーン・マーティン 出版月: 1958年01月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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No.1 5点 人並由真 2018/11/12 14:29
(ネタバレなし)
 その年の十月末のロンドン。66歳の考古学者ロナルド・チャリス教授は、懐旧の念に駆られて数年前に他界した友人ジョン・バリントンが暮らしていた屋敷に足を運ぶ。バリントンの未亡人エリカは再婚して去り、現在の屋敷はアメリカの青年建築家ブランドン・フレットの住居となっていた。フレットの厚意で懐かしい邸内を見せてもらった教授は、庭にすこぶる印象的な十二人の美少女の彫像が置かれているのに気がつく。フレットの説明によると、それは先の住人のフランス人で評判の若手彫刻家ポール・グラッセの作だという。だがそのグラッセ当人は半年前、大規模な美術展への参加直前になぜか謎の失踪を遂げていた。グラッセの行方に関心を持つ教授。これがチャリス教授の、数カ国を股にかけた冒険と謎解きの旅の始まりだった。

 1957年の英国作品。創元の旧クライムクラブのなかでまだ未読の一冊を、内容もまったく知らないままに読んでみた。そしたら中味は、英国~フランス~地中海と舞台を転々とさせる、年輩アマチュア探偵の冒険スリラーであった。
 とはいえさすがに老境の教授のみに冒険&活劇物語の全パートを担当させる訳にもいかず、グラッセの元カノ(みたいな)だったお嬢さまのポリー・ソレルや、グラッセ当人の弟シャルルなども準主役となり、場面場面ごとに彼ら彼女らの視点からの活躍を見せる。
 さる事情から兄の方のグラッセに追撃の手をかけるフレットの思惑や、本書のタイトルロールである少女像のモデルとなった女性たちのいくつかの逸話、教授に力を貸してくれるサブキャラの扱いなどなど、キャラクター描写全般になんか妙な艶っぽさはあるが、筋運びは割とストレート。地味な感じを受けないでもない。
 それゆえ最後までこのまま終るのかな……と思っていたが、終盤に割と大きな仕掛けが連続してあり、最終的にはそれなりに楽しめる作品だった。
 50年代当時の英国冒険スリラーとしては、多彩な異国情緒の妙味もふくめて佳作クラスであろう。

 ちなみに巻末の植草甚一の解説(『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』にも収録されているハズ)によると、チャリス教授は作者のシリーズキャラクターらしい。本書が作者のデビュー作で、当然シリーズ第一作。
 他の作品では、助手である若い女性と行動する話もあるとのこと。こういうじいちゃんキャラの冒険ミステリというのはいかにも英国作品っぽく、そっちも面白そうだというのならちょっと他の冒険録にも触れてみたい。


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シェーン・マーティン
1958年01月
十二人の少女像
平均:5.00 / 書評数:1