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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 奇跡のお茶事件 「聖者(セイント)」サイモン・テンプラー/旧題『聖者対警視庁』 |
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レスリイ・チャータリス | 出版月: 1959年01月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
新潮社 1959年01月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2018/11/06 19:45 |
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(ネタバレなし)
『奇跡のお茶事件』 裏社会の犯罪者にして冒険児である「聖者(セイント)」こと青年サイモン・テンプラー。 彼とくされ縁があるロンドン警視庁の警部クロード・ユースティス・ティールは、くだんの「聖者」を捕縛できない苦渋もあって胃を痛めていた。そんな時、ラジオから流れるCM。それはロンドンのオスペット薬局が独自に売り出した、胃病などに効く飲料物「奇跡のお茶」の宣伝だった。騙されたと思って薬局に赴き、お茶の葉を購入するティール警部だが、その帰路、何者かがなぜか警部を襲う。偶然、現場を通りかかった「聖者」は負傷した警部を救うが、これがさらに意外な事件へと……。 『ホグスボサム事件』 「国民公徳心振興会」の代表を務める人物エビニーザ・ホグスボサム。世の中に高潔なモラルを訴える彼の存在は、ロンドン界隈でいまや時の人となっていた。そんなホグスボサムの言動にどこか胡散臭さを感じた「聖者」は、部下の米国人ホッピイ・ユニアッツとともに相手の屋敷に忍び込む。だがそこで「聖者」たちが目にしたのは、ホグスボサムならぬ別の人物が椅子に縛られ、暗黒街の人間に拷問されかかる現場だった。 あくどい金持ち相手に窃盗や強盗もするが弱者は狙わず、一方で非道な裏社会の犯罪者の排除も行う「聖者」シリーズ、その中編二本を収録した一冊。原書ではこの中編二本はどちらも、1938年(1939年説もあり)刊行の中短編集「Follow the Saint」に収録らしい。 今回、なんか急にチャータリス=「聖者」が読みたくなった(我ながらなんでだろ~笑~)ものの、大昔に購入しているハズの邦訳長編二冊(ポケミスと六興)が家の中から出てこない。じゃあ……ということで、Amazonで値下げされていた本書の古本を通販で買った。あら、翻訳が黒沼健。これは面白そうということで、本が家に届いてからすぐ読んだ。 チャータリスの「聖者」は、ミステリマガジンで短編を何作か読んでるはずだが、たぶんまとまった形で読むのはこれが初めて。もしかしたら大昔に集英社かどっかの児童向けリライトを一冊読んでいるかもしれないが、少なくともその内容は(万が一読んでいたとしても)ほとんど忘れてしまっている。 (ただしその児童書版の翻訳リライト担当者がエラくマジメな人で<「聖者」はヒーローといっても結局は悪人なのだ、彼はいつか銃弾を受けて死なねばならないのだ>と前書きか後書きかで年少の読者向けに主張していたのだけは、よく覚えている。) それで本書だが、古い翻訳ながら期待通りに黒沼健の訳文はめちゃくちゃテンポがよく、いっきに中編二本を読んでしまった。いや、なかなか面白い。非道なことは決してしないが、悪人相手なら拷問までする(実際にはそのふりだけだが)、恋人パトリシア・ホームが叔母さんに会いに行く際、遺産目当ての打算だねとか厨二の不良みたいな悪擦れしたジョークを言う「聖者」はキャラクターの幅があってよい。少なくともお行儀の良さに縛られる紳士犯罪者ではない。 ストーリーの方も謎解きミステリとしての結構を誇るのはムリだが、それぞれ程よく意外な事件の真相が設けられ、そこに向かって聖者(と少人数の仲間たち)が活劇を交えながら迫っていく筋運びもハイテンポで良い。一番わかりやすい例えでいうなら、ホームズ譚の<謎解きの興味もある、活劇よりのエピソード>、あの辺に近い。 まあご都合主義的にうまく登場人物がからみ過ぎる部分もないではないが、そこはそこ、娯楽活劇の旧作としての許容範囲である。たまにはこういうのも良い。 (ただ『ホグスボサム』のラスト、作者が読者目線での痛快さを狙ったのはよくわかるが、冷静に考えるとこの「聖者」の行為は行き過ぎだよね~もちろん、ここであまり詳しくは言えんが。) ちなみに本作(新潮文庫の本書)は黒沼健の後書きによると、先に日本出版共同から刊行された『聖者対警視庁』と同様の内容だそうだが、チャータリスの未訳の原書のなかに和訳するとまんまその邦題(「聖者対警視庁」)になる作品(1932年の「The Holy Terror」。この米国版の題名が「The Saint vs. Scotland Yard」)があり、そっちが今後紹介される可能性を考えて、本書はこの文庫版刊行の時点で改題したという。 とても行き届いた配慮だったけれど、結局、半世紀以上経った21世紀の今になっても、該当の作品はまだマトモには未訳のままなんだよなあ(苦笑)。 (ジュブナイル版としては『あかつきの怪人』の邦題で、あかね書房から出ていたみたいだが。) んー、チャータリスの未訳作で面白そうなのがあったら、やはり論創さんあたりで今からでも発掘してくれないものか。 |