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[ サスペンス ]
死の目撃
ヘレン・ニールスン 出版月: 1961年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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早川書房
1961年01月

No.1 6点 人並由真 2018/10/11 04:12
(ネタバレなし)
 その年の7月。ニューヨークの出版社「ハリソン書房」のベテラン社員マーカム(マーク)・グラントは社長ファーガソンの指示で、ノルウェー(本文ではノールウェイ表記)に向かう。目的は、オスロに在住する国際政治の大物の元外交官トール・ホルベルグの回顧録の原稿を受け取るためだ。だが今回の出張はファーガソンの計らいで日程を気にしない半ば慰労休暇の面もあるということで、マークはのんびりと船旅を満喫する。そんな彼は同じ船で親しくなった元実業家オットー・サントキスの勧めで、同じく乗客仲間の女性教師ルース・アトキンズとともに、ノルウェーのベルゲン港に船が停泊した際、地元の登山電車を楽しむことにした。だがその車中でマークが目にしたのは、すれ違う登山電車の中で男が若い女性を扼殺する現場だった!

 1959年のアメリカ作品。作者ヘレン・ニールスンは、50~60年代の日本の翻訳ミステリ雑誌などでも中短編が多数紹介された女流作家で、評者は古書店で買いあさった古雑誌のバックナンバーで、それなりに作品を楽しんだ覚えがある(ただし最近のweb記事などを見ると、ミステリ評論家の小森収などは邦訳された短編群には、総じてあまり良い評価をしていないようである~うーむ)。

 本作はクリスティーの『パディントン発4時50分』を思わせる趣向の巻き込まれ型サスペンススリラー+異国情緒がセールスポイント。さらに物語の前半~半ばで主人公マークが、くだんの殺されたはずの美女=シグリット・ライマーズにまた別の場で再会(!?)。当年39歳のマークが母国アメリカに美しい妻と3人の子供を残しながらもシグリットに心惹かれていくという、イタリア映画『旅情』風の、シニア向けメロドラマも用意されている。
 死者との再会の謎? というケレン味を引きずったまま、じわじわと主人公周辺のドラマが進行していくあたりは、ちょっとアンドリュー・ガーヴあたりの作品の雰囲気を感じないでもない(まあガーヴは、あんまり男性主人公のよろめきは書きそうもないけれど)。
 間断なく小さな事件が続き、後半さらに大きく物語が動き出す流れは好テンポで、これは良い意味で土曜ワイド劇場あたりの2時間ドラマへの翻案が似合いそうな一本であった。
 終盤の、序盤での殺人現場目撃の謎解きはいささか強引な気もしたが、一方で21世紀になんとなく我々が常識と思っている知見に「本当にそうなのか?」と水を向ける部分もあり(もちろん詳しくは書けないが)、その意味でなかなか興味深かった。
 180ページちょっとの短い紙幅ながら、数時間分はみっちり楽しめる一作ではある。評点は、前述した終盤のある謎解きポイントが印象的なので、0.5点おまけ。

 なおニールスンの長編は、まともな一般向けの翻訳は本書を含めて二冊だけ。短編の邦訳が多くてもすぐには読めないだろうし、現在では忘れられた作家ということになるだろうが、実はデビュー当時からバウチャーなどに評価され、処女作などもやはりバウチャーが選んだその年のアメリカ作品ベスト10に選出されていたそうである。まだなんか面白そうな未訳作品が残っていたら、発掘してほしい気もしないでもない。

余談:ポケミスの本書の裏表紙の作者の顔ビジュアルは、写真でなく似顔絵のモノクロイラストを使用。トマス・スターリングの『ドアのない家』の初版(再版は割愛)同様の仕様で、歴代ポケミスの中では珍しい一冊のハズである。他にこんなの、あったっけかな。


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ヘレン・ニールスン
1961年01月
死の目撃
平均:6.00 / 書評数:1