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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
ハイランダー号の悪夢
ブライアン・キャリスン 出版月: 1990年06月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1990年06月

No.1 7点 2019/01/07 11:17
 船は見るからに船らしく造られた――水に浮かぶアパートのようにではなく、船を海と一体にする優雅さと調和をもって。水面の異物ではなく、自然の一要素として。

 スコティア海運の船長ジョナサン・ハーシェルは、長い航海を終えてグラスゴーに帰宅すると、ストラスクライド警察署から褐色の紙に包まれた箱を受け取った。同居人フランとチャーリーが見つめる中箱を開けると、そこには美しい六分儀が入っていた。
 磨きこまれた紫檀の箱の金属プレートには「ジョナサン・ハーシェル」の名前が。父親の所持品だった。
 だが父は第二次大戦さなかの一九四一年、内燃機船ハイランダー号の船長として魚雷を喰らった船と運命を共にし、冬季北大西洋の海底に沈んだはずなのだ。生存者はいなかった。
 船乗りがいちばんの財産であり、自分の目である六分儀を人手に渡すはずもなく、ましてやこの重さでは海岸に流れ着くはずもない。だが、現実に目の前にそれがあるのだ。しかも部品は入念に手入れされている。
 警察の話では、他の金品と一緒にスコットランドの一寒村ライチーの教会から盗まれたものだという。しかし教区の牧師はそれを否定していた。
 ジョナサンは二人の同居人と共に、六分儀の謎に迫ろうとするが――。
 1981年発表。原題はズバリ "The Sextant"(六分儀)。なかなかの力作です。
 現在パートと一九四一年航行中のハイランダー号パートとが交互に記述され、ジョナサンたちの探索の果てに終章で一体となる構成。実際に船が魚雷を受けたあとの描写は、この作家らしく生々しくざらざらした記述でアリステア・マクリーンに匹敵するもの。どう考えてもこのまま沈没するか、爆発するしかねーなという感じで不可能興味を盛り上げます。
 現在パートは対照的に穏やかそのもの。主人公は同居人たちと男二人に女一人の奇妙な同棲関係を営んでおり、他の二人は新聞記者。夫婦連れを装いスコットランドに向かうのですが、ライチーの村民たちや宿屋の親子は人懐こく、後ろ暗そうにも見えません。牧師に至っては四十年前には生まれてもいないのです。そんな中、別口で調査に当たっていた同居人チャーリーがライチー近郊の山で転落死し――。
 魅力的な掴みでずっと気になっていた作品。戦争中の悲劇と言ってしまえばそれまでですが、現在パートの描写の暖かさが救いですね。トラップ船長シリーズとはまた口当たりが違いますが、作者としてもかなりの自信作だと思います。


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ブライアン・キャリスン
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