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[ 本格/新本格 ]
合邦の密室
劇評家ライター・海神惣右介
稲羽白菟 出版月: 2018年06月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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原書房
2018年06月

No.1 6点 人並由真 2018/07/24 06:02
(ネタバレなし)
 文楽三味線の若手奏者・冨澤弦二郎は、ある日、相方の文楽太夫・冨竹長谷太夫から、誰が書いたともしれない一通の直筆の文書を見せられる。それは親が子に毒を呑ませてその顔を無惨に変貌させ、さらには死者の生首が中空に浮かぶ怪異を記した内容だった。それと前後して彼らの周辺からは、文楽の人形方の生年・楠竹真悟が舞台を放棄してどこかに消え去る変事が生じた。一方で、弦二郎の友人で劇評家のライター・海神惣右介は生き人形作家の二代目・梅本久太夫を取材。その訪問先で驚くべき事物を目にする。やがて事態の流れは、1968年に瀬戸内海のある島で生じた殺人事件へと連なっていくが……。
 
 第9回・ばらのまち福山ミステリー文学新人賞の準優秀作。
 内容はあらすじのとおり、文楽(ぶんらく)=人形浄瑠璃の一種で、大阪を発祥の地・本拠とする「人形浄瑠璃文楽」を主題としたもの。一読してそのジャンルに何となく通じたような気分になる、業界ものというか情報小説っぽい作り。なんか乱歩賞作品っぽい。
 冒頭で語られた魅力的な怪異の謎がページをめくるうちに「実はただの紙の中の話? ……なんだあ……」と一度は思わせておいて、しかし物語半ばからちゃんと現実の事件として再浮上してくる流れなど、なかなか良い。
 ストーリーの後半、舞台が本当のステージである瀬戸内海の小島・葦船島に移り、そこで過去の事件に焦点を当てながら、怪しげな人物が続々と集まってきたところで密室(的な)事件が発生。リアルタイムの犠牲者が発生する段取りも手堅い。
 ただし、なんだろう。それこそ不可能犯罪の興味から昭和の社会派ネタまで続々と盛り込み、合わせ技で勝負をかけてくる一方、ひとつひとつのパーツが薄いような。特にあるキーパーソンが守り続けた秘密の情念はなかなか迫力があるものの、作中のリアルとしては(中略)や(中略)などどう処理していたの? という疑問が浮かぶ。
 とはいえ料理の具それぞれの水っぽい感じをそれで一応よしとするなら、仕掛けはそれなりに以上多い作品で、その辺は魅力。実はあんまり読んだことないんだけれど、頭のなかに勝手にある<山村正夫センセあたりの二線級パスラー>ってこういう感じだろうか、というイメージ。妙に昭和っぽい味覚もふくめて、それなりに楽しめたけれど。

 ひとつお願いというか気になったのは、登場人物表。中盤、密室状況の空間から消えて死体で発見される登場人物の名前は、ちゃんと入れておいた方がよいと思います。


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