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[ クライム/倒叙 ]
男の争い
オーギュスト・ル・ブルトン 出版月: 2003年12月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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早川書房
2003年12月

No.1 8点 クリスティ再読 2018/09/02 22:21
「現金に手を出すな」と並ぶフレンチ・ノワールの代名詞的古典である。(両者1953年出版)。けども本作の翻訳は「現金」が1975年だったのに更に遅れて2003年にやっと、である。「現金」が主人公嘘つきマックスの主観による妙なほのぼの感があるのに対して、本作は肉体的に苛烈だよ。参った。スプラッタ的でさえある。マンシェット以降の「若き狼」への影響は「現金」よりこっちのが強いんじゃないかな。
出所したてのヤクザ、トニーは肺を病んでいた。ここらで一発大仕事をキメようと、親友ジョーと組んで宝石店に夜間に侵入して奪う計画を立てた...仕事は順調、難なく宝石の強奪に成功し、ジョーは故買屋と話をつけるためにロンドンに飛んだ。奪った宝石を女に贈った仲間のドジから、最近暗黒街(ミリュー)に勢力を伸ばしてきたアラブ人のソラ三兄弟に、一件を嗅ぎつけられる...奪った宝石を横取りしようとするソラ兄弟と、トニー一味との死闘が始まった!
トニーの元情婦が、トニーの収監とともにあっさり裏切ってトニーの私物を処分し、しかもソラ兄弟の長兄の情婦に収まる、なんて因縁もあって、トニーが元情婦にヤキを入れるシーンもあってね。胸にアイロンで焼印を押すんだよ、甘かないんだぜ。
で、最後は妻子持ちのジョーの子供を誘拐するなんて、掟破りな挙に出たソラ兄弟に対して、ミリューが結束する場面がある。フランスの暗黒街の、自立した一本独鈷の自営業ヤクザ同士がゆるく連帯する描写が、作品がハードなだけに、何かいい。
というわけで、「現金」より高評価。息もつかせぬ面白さがある。あと面白いのは本作の解説を「クリスティ完全攻略」でお世話になった霜月蒼氏が書いていること。これがなかなかフルってる。

ル・ブルトンの代表作二篇、フィルム・ノワールの古典「赤い灯をつけるな」、「筋金(やき)を入れろ」両作の原作も未訳のままだのだ。
<ポケミス名画座>には現金(グリスピ)なぞ度外視し、われわれミステリ読者(ミリュー)とブルターニュのオーギュスト(オーギュスト・ル・ブルトン)のために、争い(リフィフィ)に打って出ていただきたい。
そうだろう、友よ?
(そのとおりだ、友よ! ちなみに未だに未訳だよ...)


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オーギュスト・ル・ブルトン
2003年12月
男の争い
平均:8.00 / 書評数:1