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[ サスペンス ]
死の長い鎖
サラ・ウルフ 出版月: 1989年02月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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ミステリアス・プレス
1989年02月

No.1 6点 人並由真 2018/06/20 20:37
(ネタバレなし)
 高校教師の青年ディヴィッド・ブレットは、父の生まれ故郷の町フェアフィールドに帰参して5年目。住民達の憧れだった美人の女性教師エリザベスを妻に迎えたが、まだまだ彼をこの町の中では新参者だと見る者も少なくなかった。そんなある日の朝、ブレット家の乗用車が突如爆破し、エリザベスはお腹の子供ともども命を奪われた。呆然とするデヴィッドのもとにさらに届いたのは、彼の教え子であるチアリーダーの美少女ジェニー・ウィルソンが、その彼氏のレイン・カーペンターともども射殺されたという惨劇の知らせであった。両事件の関連を追う警察署長のフィリップ・デッカー警部補は、エリザベスとジェニー、双方に関係する人物としてデヴィッドに嫌疑の目を向けるが、やがて露わになるのは、この町の周辺で十数年にわたってひそかに進行していた十数人もの人間の命を狙う何者かの殺意であった。

 みんな大好き(?)佐藤圭の名著=ミステリガイドブック『100冊の徹夜本』を読み返していたらなんとなく意識した、評者が今まで未読だった一冊。本サイトでもまだレビューが無いので、どんなかなと思って一読してみた。原書は1987年に書かれた作者のデビュー作。
 ちなみに『100冊』での本書紹介ページの惹句は「ミステリー史上、<いちばん殺人件数の多い殺人鬼>は誰だろうか。」である。まあその主題に沿った作品がズバリこの長編なのかといえば異論がある向きもあろうが(評者も「あっちの作品じゃないですかね~」と言えるのが一つ二つはある・笑)、開幕70ページちょっとで、それまで一見秘匿されていた多数の殺人計画が露わになっていくダイナミズムは確かにすごい。そういう意味で加速感も強烈な内容で、ページをめくり始めてから半日で、ほぼ一気に読み終えてしまった。

 ただし中盤である程度、事件の底が割れてからはちょっと(……ムニャムニャ)。作者も本当はもうちょっと奥深い仕掛けを仕込みたかったんだろうけど、迷った末に直球を投げてしまい、それでもそれなりの球威があった、という仕上がりである。読んでるうちに、こういう話の流れならこうなるんじゃないかな……。このキャラクター描写は思わせぶりなミスディレクションじゃないかな……。実にあれこれ想像力を刺激させられた一冊であった(笑)。
 全体としてはM・H・クラークの初期編とかあたりに近く、技巧的にはそっちよりちょっと弱いけれど、別の部分でのケレン味をまぶしてある感じ。サスペンススリラーとしてはまとまった印象で悪くは無い(ちょっと大設定とか趣向とかクリスティーの『殺人は容易だ』を思わせるところもあるが)。

 ところでこの作者、日本ではこの一冊で紹介が終っちゃったのかな……と思っていたら、講談社文庫にて、S・K・ウルフ名義で二冊のエスピオナージュの翻訳書が出ている。機会があったら、いつかそっちも読んでみよう。


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サラ・ウルフ
1989年02月
死の長い鎖
平均:6.00 / 書評数:1