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[ SF/ファンタジー ]
巨神計画
「巨神」三部作
シルヴァン・ヌーヴェル 出版月: 2017年05月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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東京創元社
2017年05月

No.1 7点 人並由真 2018/06/07 04:09
(ネタバレなし)
 アメリカの片田舎。自転車に乗っていた11歳の科学好き少女ローズ・フランクリンは、突如陥没した地中に落下する。重傷を負うはずの彼女はほぼ無傷で、地下空洞内に埋まっていた、約6メートルの巨大な金属の掌の上にいた。やがて時が経ち27歳の新鋭物理学者となったローズは、その巨大な手が地球上にほぼ存在しない物質=隕石のみから採取されるイリジウムで構成されること、またその他の研究結果から、それが約6000年前にどこか外宇宙の異星文明が地球にもたらした巨大ロボットの一部だと認めていた。アメリカ政府内の極秘プロジェクトスタッフの後見を受けてローズとその仲間たちのさらなる解析が進む一方、地球の各地からイリジウムの反応を手がかりに、分散した巨大ロボのパーツが極秘裏に、時に半ば強行的な手段で、ひとつひとつ回収されてゆく。やがて復元される約60メートルの女神状のロボット「テーミス」。だがその存在は地球文明に、新たな転換期の到来を告げていた。

 2016年に北米で刊行されたばかりの、まだほやほやの巨大ロボットSF(邦訳は文庫で上下巻の二分冊)。とはいえSF文芸そのものは良くも悪くも50年代のクラシック作品っぽくて、その分、自分のようなSFプロパーでない読者にはとてもなじみやすい。
 ちなみに作者は本作を、かつて同地で翻訳放映されたTVアニメ『UFOロボ グレンダイザー』からのインスパイアで書いたそうだが、むしろ、発掘される巨大ロボ、人類の制御を越えたその超兵器ぶり・・・これはズバリ『イデオン』だな。昨年の国内の某ホラー作品の大ネタといい、昨今は世界同時多発で伝説巨神(巨人)ブームなのだろーか。

 んでもってこういう世界を股に掛けたお話だから、さぞ登場人物の頭数も膨大なものになるだろうと覚悟したが、名前が登場するキャラの全部でもわずか20人前後。しかもメインキャラはその半分という、予想外にストレスの生じない作劇にびっくりした! 
 しかもその少ない主要人物だけで、隔離された巨大ロボ研究解析の場という特殊状況の中に生じるキャラクタードラマを起伏感豊かに叙述。さらにその一方で、着々と巨大ロボが組み上がり、同時に壮大な世界観のビジョンが広がっていく過程を緊張感たっぷりに見せていく。うん、これは面白い。
 特に上巻の前半、巨大ロボのある部分の発掘時に地表に生じてしまった予期せぬ大惨事、さらに下巻冒頭の、そこまでの経緯をあえて省略する演出で描かれる一大クライシスの図など、正に小説という形式で語った和製巨大ロボットアニメ風の超パワー描写である。自分のような、そっちの系列の映像作品がスキな人間には、ああ、たまらない(笑)。
 まあ細部までツッコむと、けっこう重要な描写(作中のリアリティにおいて、そこんとこはどうなったんだろう・・・というある種の疑問が生じる箇所)など都合良く曖昧にされているのか? という箇所も無きにしもあらずだが、得点的には、十分楽しめた。
 なお小説はその全編が、巨大ロボ復元プロジェクトの中核にいる本名未詳の人物が関係者から採取したインタビュー記録を並べる形で綴られる。若干、わずらわしく、物語の潤滑さを妨げている部分もあるが、総体的には本作の独自性を打ち出し、なかなか面白い効果をあげているだろう。
 今月、翻訳刊行される第二部(やはり上下巻)にも期待しております。


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シルヴァン・ヌーヴェル
2017年05月
巨神計画
平均:7.00 / 書評数:1