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[ SF/ファンタジー ]
超男性
アルフレッド・ジャリ 出版月: 1989年05月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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白水社
1989年05月

No.1 7点 クリスティ再読 2018/04/08 11:23
「わけの分かる」ものだけを面白いと感じる読者もいるのだろうが、評者とかは「わけが分からないがそれでも抜群に面白い」というのを積極的に面白がろうと思うのだ。というわけで本作。白水社のuブックスでは「小説のシュルレアリスム」で纏められたシリーズに入っていて、シュルレアリストに愛された作品なのだが、ブルトンの「ナジャ」とかヘンリー・ミラーみたいな「シュルレアリスム小説」ではないし、SFなのかポルノグラフィーなのかヒーロー小説なのか、なんとも分類できないヘンテコ小説である。だが、それがいい。
本作の主人公マルクイユは、一見冴えない鼻眼鏡・猫背の有産階級の男である。しかしその姿は擬態であって、彼こそは実は「超男性」だった。彼のパーティでマルクイユは2つの挑戦をすることを公にする。「永久運動食」によって強化された5人乗り自転車チームと機関車とのパリ~イルクーツク往復競争を出し抜いて、両者に自転車で勝つこと。それと「テオスフラトスの称賛する、ある種の植物の力を借りて、一日に70回以上(性交を)行ったインド人の記録」を破ること。この2つの肉体的偉業である。
..まあだから、本作はマンガみたいな話なのである。5人乗り自転車と機関車に対しては、幽霊のような乗り手としてそれに並走してついには抜き去るし、この競争の発案者のアメリカの実業家の令嬢と、医師立ち合いのもとに一日70回を超えた82回の記録を樹立してしまうのである...最終的には1万ボルトの電流にも勝利し「機械の方が人間に恋をしている」状態に至る。
そういう超人の話である。もちろんこの超男性には内面などという曖昧なものは一カケラもなく、機械の厳しい正確性があるばかりだ。そういう意味で、本作もたとえばハードボイルド・ヒーローたちとともに、特にフランス20世紀の広義のノワールの原型の一つと言えるだろう。評者は「超男性」をゴダールの「勝手にしやがれ」の主人公の祖父くらいにいつも感じるんだよ。

誰も信じないからあたしは信じるのです...馬鹿げたことだから信じるのです...ちょうど神を信じるように!

本作は 1902年という20世紀の本当にトバ口で書かれた小説なのだが、本作こそが、ある意味「20世紀」を体現した作品のように感じるな。(機械の精神が骨の髄まで入っているせいか、本作はナルシスティックだけど全然エロくないですよ。ミョーな期待はしないでくださいね)


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アルフレッド・ジャリ
1989年05月
超男性
平均:7.00 / 書評数:1