皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ ホラー ] MORSE―モールス |
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ヨン・アイヴィデリンドクヴィスト | 出版月: 2009年12月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 2009年12月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2018/04/05 16:20 |
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(ネタバレなし)
1981年秋期のスウェーデン、片田舎のブラッケベリの町。いじめられっ子の肥満児、12歳のオスカル・エリクソンは、父と離婚した母親と二人暮らし。オスカルの趣味は残虐な犯罪実話の刺激に没頭することだった。ある夜、そんな彼は自分よりひとつ年下…と語る美少女「エリ」に出会う。エリは、奇しくもオスカルのアパートの隣室に、父親らしき中年男ホーカンとともに越してきた。だがそんな二人の到来と同時に、ブラッケベリの町周辺では陰惨な猟奇殺人が続発する。 スティーヴン・キングを思わせると評判を呼んだ、スウェーデンのヴァンパイヤ・ホラー。 個人的に、たまたま21世紀のミステリマガジンのバックナンバーをつまみ読みしていたところ、上下巻の本書のレビューがなんとなく目にとまる。そこでの書評<吸血鬼のお約束の行動~相手に招かれなければ家に入れないというおなじみの儀式が、孤独な少年が異界の少女と接して受け入れる内面のメタファーになっている>とかなんとかの趣旨の記述に、興味を惹かれた。 そうしたら近所のブックオフでくだんのミステリマガジンを読んだのと同じかその次の週辺りに本書(上下巻)を見つけ、購入に及んだわけである。なんか現実の方でも、本当にちょっとだけドラマチックなタイミングでの本との出会いだった。 主人公の少年オスカルと「エリ」との接触、友人を謎の殺人鬼に殺された中年男の復讐ドラマ、周辺で生じるさまざまな人間模様……などなどのパーツを巧妙に潤滑に組み合わせ、その上で<人外の存在がもし現代の現実に存在したら…>の思考実験もからませながら物語を進めていく。なるほどこれはキングっぽい。テンポの良さも本家に倣う感じで、ほぼ一気に最後まで読み終えた。 とはいえ終盤はおそろしく駆け足で、残りページがあと二十ページ、さらに十ページと少なくなっていくなか、これはかなり思い切った小説的演出になるんだろうなと予期したが、まとめ方は悪くなかった。少なくとも期待していた詩情と余韻は十分に味わえる。 ちなみに本作の原書は2004年の刊行だが、時代設定が80年代初頭なのはなぜだろう。ズバリ『呪われた町』へのオマージュかなんかか。吸血鬼というモチーフには、いつの時代も微妙な懐古感が似合うという狙い所だろうか。 なお本作は2008年に母国で、2010年にアメリカでそれぞれ映画化されて反響を呼び、日本の読者の中には映画から先に本書との縁を持った人も多いようである。機会があったら、良さそうな方から観てみよう。 最後に、タイトルの「モールス」とは壁越しに隣家のエリに意思表示したいと思ったオスカルの手段~モールス信号に由来するが、ドラマ上の比重としてはこの通信手段はそんなに大きな意味をもっていない。何か別の邦題にしても良かったのではないか。 |