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[ 警察小説 ]
リスとアメリカ人
高山検事&笛木時三郎刑事
有馬頼義 出版月: 1959年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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講談社
1959年01月

東都書房
1960年01月

No.1 7点 人並由真 2017/09/17 20:04
(ネタバレなし)
 循環器系医療の権威で、現職総理大臣や警視総監などの主治医でもある著名な開業医・深草太郎。その深草はある夜、秘書の丘左記子を先に帰宅させて診療所に残っていたところ、複数の人物に誘拐される。連れ込まれた場所で命令のままに数名の男性を診察した深草は、患者たちが近年の日本では信じられない伝染病=ペストに罹患している恐るべき現実を認める。医師の謎の失踪事件は小さな新聞記事にもなり、深草と縁があった高山検事はなじみの老刑事・笛木時三郎とともに捜査に及んだ。そしてそんな彼らが間もなく直面したのは、十万単位の人々を襲う可能性のあるペストの脅威と、その災厄の陰に潜む謎の犯罪であった。

『四万人の目撃者』に続く、高山検事&笛木刑事シリーズ第二弾(作中でも繰り返し、前作『四万人』事件の話題が語られる)。元版は昭和34年に講談社から箱入りの単行本で刊行された。

 当時の日本ではおそらく珍しかったはずの、今で言うパンデミックテーマの長編ミステリ。
 東京都を主体にいきなり生じたペスト蔓延の危機。この脅威に晒される市民を守ろうとする関係者たち(感染経緯を探ろうと務め、同時に被害の拡大を防ごうとする厚生省や保健所の医療技師連、ペスト菌を研究してきた老科学者など)の奮闘や活動を視野に入れながら、冒頭の誘拐事件から発展するホワイダニット、ホワットダニットの謎(そもそも誘拐犯人たちはなんで秘密裡に深草に治療を強いたのか? そしてこの事態の陰にはどういう事件性が潜むのか?)が物語のキモになる。
 災厄パニックものの興味を抑えながら、わずかな手掛かりである夜間の二発の銃声から、事件の捜査対象を絞り込んでいくストーリーの流れは淀みなく、全編のリーダビリティは頗る高い。
 日本を含む東西の歴史上、ペストがいかに人類にとって危険な感染病だったかの検証も相応のデータを披露しながら丁寧に説明され、この辺りは80年代以降に隆盛した情報小説もしくはネオ・エンターテインメントの先駆け的な趣もある。

 さらに事件の周辺で展開される登場人物たちのさまざまな素描も味わいがあり、恋人との関係に夢と不安を覚える左記子の内面や、太平洋戦争から現在まで警察官としての複雑な記憶を改めて噛みしめる笛木刑事、充分な予算や設備も与えられないままペスト菌の研究を80歳まで続けてきた老科学者・名取ほか多くのキャラクターが鮮烈。(また、ほとんどモブキャラながら、当初は警察への協力に消極的だったものの、笛木が味噌作りの仕事ぶりに関心を示すうちに口が軽くなっていく老舗味噌蔵の主人なども妙にいい味を出している)。キャラクタードラマとしても随所で手応えがある一冊だった。
 なお国外からの病原菌の感染経緯を語るなかで、自国以外は結局はおざなりに扱う20世紀の先進大国アメリカへの批判が要所で盛り込まれており、そういうところには作者のある種のメッセージ性を感じさせる。

 肝心のミステリとしては先述の「ペスト騒ぎの裏にある事件の実態は?」の興味を求めて終盤の展開まで加速感は芳醇。ちょっと細部で気になる点はないでもないが、ドラマチックに終焉する秀作といえる。個人的には『四万人』よりも面白かった。
 高山&笛木シリーズは、あと長編が一本しかないらしいのがとても残念である。


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有馬頼義
1976年12月
三十六人の乗客(旺文社文庫版)
平均:6.00 / 書評数:1
1959年01月
リスとアメリカ人
平均:7.00 / 書評数:1
1958年01月
四万人の目撃者
平均:5.75 / 書評数:4