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[ サスペンス ]
わたしとそっくりの顔をした男
サミュエル・W・テイラー 出版月: 1998年08月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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新樹社
1998年08月

No.1 7点 人並由真 2017/05/27 12:00
(ネタバレなし)
 第二次大戦の終結から数年。「わたし」こと会計事務所経営のチャールズ(チック)・ブルース・グラハムは、自宅で自分とそっくり、自分こそ<チャールズ・グラハム>だと称する男と出会う。さらに妻のコーラ、その兄で「わたし」の仕事のパートナーでもあるバスター・コックス、そしてバスターの妻エセリーンまでが口を揃えてもう一人の方こそ本物のグラハムだと認めた。警察も呼ばれるが、愛犬ジッグスがもう一人の方になつき、さらには指紋での照応まで何故か「わたし」の主張を裏切った! 家を追われた「わたし」は近所の食堂で、自分そっくりの銀行員アルバート・ランドが強盗殺人を行い、逃走中というニュースを見る。「わたし」は救いを求め、かつての恋人マリー・デービスとその兄ウォルトに連絡を取るが…。

 1949年のアメリカ作品。旧作の発掘に意欲的だった二十世紀末の新樹社が原書の刊行からほぼ半世紀経って邦訳してくれた一冊で(当時の新樹社は素晴らしかったねえ)、突拍子もない設定の導入部、容赦なく主人公を追いこむ先の読めない展開、加えて本来はイノセントなはずの動物や客観的証拠の指紋までがなぜ自分を裏切る? というサスペンスフルな謎などなど…実に面白い。
 特に中盤、「わたし」の説明を聞いて一応の事情を信じたウォルトが語る疑問<もし悪人たちの奸計でチャールズ・グラハムのすり替えが進行しているのだとしたら、それなら一味はさっさと本人(きみ)を殺して入れ替わってしまえばいい。なぜきみを生かしているのか?>は、読者の方もまさにそのへんのタイミングで感じていた強烈なホワイダニットであり、この辺のミステリ的な興味も実にいい。

 終盤まで息をつかせず読み終えさせるが、最後の方で捜査陣の警官のひとりが<『ここ』で現在の事態をおかしいと思った>というあるポイントを語り、その意味で倒叙ミステリ的な<悪事のほころびがいかに暴かれるかの興味>を満足させているのも本当にステキ。
 翻訳も総じて読みやすく、1940年代に書かれたとは思えない実に現代的な作品である。

 作者はあと一冊だけ、ミステリを書いたそうだけど、そっちもどっかからか紹介してくれないものか。 


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サミュエル・W・テイラー
1998年08月
わたしとそっくりの顔をした男
平均:7.00 / 書評数:1