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殺人事件
「月に吠える」所収
萩原朔太郎 出版月: 1965年01月 平均: 8.50点 書評数: 2件

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大和書房
1965年01月

No.2 7点 みりん 2024/05/30 20:18
私の本名はとある文学作家(本サイトの人なら9割は知ってる)の名前がそのまま付けられている。両親は今の名前と「朔太郎」とで迷ったらしい。どうせ同じシワシワネーム(泣)なら、朔太郎の方が良かったなあ…そういう経緯があって「朔太郎」は私の生き別れの双子兄弟みたいなもんだな。
今回、生き別れの双子の書いた『月に吠える』を読んで、1割程度しか理解できなかったのが悔しい。
『殺人事件』の他にも『天井縊死』『死』『酒精中毒者の死』『干からびた犯罪』など、犯罪をテーマにした哀愁漂う詩がありました。乱歩と意気投合するのも必然というわけか。

で結論何が言いたいかというと、いくら好きだからって自分の子供に「乱歩」とか「久作」とか「十蘭」みたいな名を付けると恨まれるよって啓蒙活動で今回は書評させていただきました。

※萩原朔太郎が探偵役の小説から興味を持って『月に吠える』を読んだ。流石にねえよなあと思ってダメ元で作家検索すると、まさかまさか登録されていて感動した。このサイトの守備範囲はすごい(笑)

No.1 10点 クリスティ再読 2017/05/06 09:43
とほい空でぴすとるが鳴る。
またぴすとるが鳴る。
ああ私の探偵は玻璃の衣裳をきて、
こひびとの窓からしのびこむ、
床は晶玉、
ゆびとゆびとのあひだから、
まつさをの血がながれてゐる、
かなしい女の屍體のうへで、
つめたいきりぎりすが鳴いてゐる。

しもつき上旬(はじめ)のある朝、
探偵は玻璃の衣裳をきて、
街の十字巷路(よつつじ)を曲つた。
十字巷路に秋のふんすゐ、
はやひとり探偵はうれひをかんず。

みよ、遠いさびしい大理石の歩道を、
曲者(くせもの)はいつさんにすべつてゆく。

......評者書評200点を記念してネタをします。作品内容が上記に掲載可能なミステリです(苦笑)。タイトルが「殺人事件」でちゃんと殺人事件を描き、探偵も犯人もちゃんと登場していて、文学的価値も絶大です。
まあ冗談はそこまでとして、本作が本当に凄いのは発表年代である。この詩は朔太郎の出世作「月に吠える」所収なので出版年の1917年(大正6年)以前に書かれている。翻訳ミステリを看板とした雑誌「新青年」の創刊ですら1920年、乱歩の登場なんて1923年と、「日本ミステリ史」がちゃんと始まる前に、すでに海外ミステリの香気十分な詩が書かれちゃっている、ということである!
もちろん朔太郎というと、後に乱歩とは意気投合したようで、「人間椅子」を絶賛するとか、そもそもミステリファン体質なことは否定できないけど、ポーとかドイルとか読んで「海外ミステリらしさ」を抽出し、独自で詩として結晶したのが本作ということになる。なので、評者的には日本における「西欧モダンなミステリ」の消化と実作の嚆矢として、本作の意義を強調したい。
あと、評者が特にこの詩で面白いと思う点は「はやひとり探偵はうれひをかんず」の「探偵の愁い」である。ミステリって真相が意外だったらいい、というわけではないと評者とか感じるのだ。やはり、その真相から立ち上る香気、ポエジーといったものがないと、詩的な満足は得られない。あくまでもその詩的満足感は、探偵=読者の憂愁という感受性の中で評価されるべきものである....

(詩でいいなら、朔太郎の散文詩「死なない蛸」を密室物として読むとか、「ワタシハヒトヲコロシタノダガ...」と鸚鵡が叫ぶ三好達治の「鳥語」とか、ミステリ味の濃厚な作品もあるわけでね)


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萩原朔太郎
1995年05月
猫町 他十七篇
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1965年01月
殺人事件
平均:8.50 / 書評数:2