海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ サスペンス ]
死の逢びき
リー・ハワード 出版月: 1959年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


東京創元社
1959年01月

No.1 6点 人並由真 2017/03/20 10:28
(ネタバレなし)
1950年代のロンドン。新聞「デイリー・ガゼット」の社会部次長デル・モンクトンは、その日、自分の妻モヤに気づかれないようにしながら、タクシーを使い、途中からは徒歩で、コーシナ・ミューズ地区にあるアパートの二階に赴く。そしてそこで彼が出会ったのは…。

 1955年に原書が刊行された英国作品で、翻訳は創元の旧クライム・クラブの一冊。前半の主舞台となるアパートの一室と、後半の場となる某所。ほとんどその二か所だけで物語が展開され、全編を読みながらあたかも二幕ものの舞台劇に接しているような印象を受けた(正確には後半で少し、場面の転換はあるが)。
 最初の十数ページ目からいきなりギミックが動き出す感じの作品でもあるので、今回はあらすじも本当に最低限しか書かない。

 実は本書は、サスペンスものの某・歴史的大名作のある部分を拡大し、それだけで長編が成立するかという思考実験を実際の形にしたような内容でもある(さらに読んでる途中では、これは、また別のあのサスペンスものの名作の変奏か? とも思わされた)。
 本書のある種の前衛ぶりは終盤の決着にも感じられ、最後のミステリ的な決着はまた別の巨匠のある変化球作品の取り込みのごときだ(さらにはラストの主人公の行動は、もっと別の巨匠の某作品のクロージングを連想させた)。
 要するにあちこちのどっかで見たような部分は実に多い作品なのだが、まとめられたものは今読んでもある種の新鮮さとピーキーさを感じさせる、そんな長篇になっている。

 それで巻末の植草甚一の解説を読んでも作者リー・ハワードが本書の著述時にどのくらいミステリ分野に造詣があったかは未詳だが(ほかのこの時点での著作は二作の戦争小説のみ)、それなりに受け手としてミステリを楽しんだ素養のある人間が、従来の作品とは違う変わったことをしてみようと試みた趣は感じられた。
 ただしこういう傾向の作品だから、読者を選ぶのもまあ当然。解説に引用された当時の本国での書評などでは「リー・ハワードは、クライム・フィクションでは、まず不可能だと考えられていたような新機軸を生むのに成功した」と称賛される一方、翻訳当時の我が国の小林信彦のレビュー「地獄の読書録」ではケチョンケチョンである(なおこの小林信彦の書評自体はネタバレっぽいので、本書を未読のうちは読まない方がいい)。

 さて今回の筆者の感想&評点はうーん、まあ、ホメる声もケナす気分もどっちも分かるなあ…というずるい感じ(笑)で、本当にちょっとだけおまけしてこの評点。後半の展開など好きな部分も多いのだが、かなりぶっとんだものを期待したら、良くも悪くも意外に堅実な部分も強かった、というのも正直なところ。クライム・クラブの一冊だのの予見抜きで、さらにメディアを変えて、先に書いたように舞台劇の形で一見でこのストーリーに接していたら、かなり盛り上がったろうね。


キーワードから探す
リー・ハワード
1959年01月
死の逢びき
平均:6.00 / 書評数:1