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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
アメリカン・ブラッド
ジェイムズ・マーシャル・グレイド
ベン・サンダース 出版月: 2016年07月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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早川書房
2016年07月

No.1 6点 人並由真 2017/02/27 14:44
(ネタバレなし)
 汚職警官を装った潜入捜査で、ある犯罪組織にダメージを与えたNYの元捜査官ジェイムズ・マーシャル・グレイド。彼は合衆国の証人保護法の庇護のもと、人目を避ける日々を送っていた。だがくだんの犯罪組織の関係者はマーシャルへの報復のため、謎の殺し屋「ダラスの男」を刺客に差し向ける。一方でマーシャルは、とある少女の失踪事件を見とがめ、その行方を追うことになるが……。

 ヒギンズの傑作『死にゆく者への祈り』などをちょっとだけ連想させる、過去のあるやさぐれヒーローを主役にしたアクションスリラー。

 それでいきなり冒頭の1ページめから
「この感覚は知っていた。酒は暖かな癒しだった。一杯ごとに、意識の薄膜が一枚ずつはがれていく。
 現在のトラブルは消える。
 過去のトラブルも消える。
 名前も消える。自分の名前もふくめて」
 と来るので、な、なんなんだこの『幻の女』みたいなアイリッシュ風の文体!?
 と思ったら、ホントーに訳者は『幻の女』の三代目翻訳者だった。
 我が慧眼ホメてホメて(笑)。

 んで内容の方は、他人数の視点を書き分け、マーシャルの関わった5年前の事件の実相も本筋と並行して少しずつ明かしながら、現在形の物語のクライマックスに迫っていく、ちょっとだけ立体的な構造なんだけど、話の流れは全体的に淀みなく、リーダビリティは高い。ポケミス400ページ弱の物語をハイテンションなまま、ほぼ一気読みで楽しんだ。
 ただし現在形のマーシャルの闘いの原動となった、失踪した17歳の少女アリス・レイと彼との関係。物語序盤では思わせぶりにアリスを思う彼の内面が断片的に語られ、これはもっと何か深いところで過去に彼と彼女の間に何かあったのだな? ルパンとクラリスか、はたまたマクリーンの『恐怖の関門』みたいな主人公だけが心に秘めているホワットダニットとホワイダニットが最後の最後に明かされるのか!? と思っていたら、…えー…という感じで終わった。
 全体的には技巧的に達者な作品だとは思うけど、この点だけは悪い意味でフィクションの文法ハズしてるよね。表向きは大した縁も無い少女のために奮闘する主人公というロマンチシズムは、滝伸次か紋次郎かバイオレンス・ジャックみたいな、なつかしい種類の魅力的な風来坊ヒーローのスタイルを期待してたんだけどな。


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ベン・サンダース
2016年07月
アメリカン・ブラッド
平均:6.00 / 書評数:1