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[ パスティーシュ/パロディ/ユーモア ] 豚は太るか死ぬしかない トレース |
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ウォーレン・マーフィー | 出版月: 1987年05月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1987年05月 |
No.1 | 7点 | tider-tiger | 2016/09/23 13:03 |
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失踪した不動産屋には多額の生命保険がかけられていた。その妻は警察に頼ることを極度に怖れていた。警察沙汰にして夫が無事であったりしたら「俺に恥をかかせた」と酷い目に遭わされるのだ。そんなわけで保険調査員のトレースが内密に調査を命じられた。何日かに亘って催される日系人の集会に出席するから(後述チコの付き合いで)と仕事から逃れようとするトレース、ところが、いざ出席してみれば日系人の集会とやらはトレースには苦行以外のなにものでもなかった。あれに出るくらいなら仕事の方がまだマシ。ようやく調査を始めるトレース。すぐにわかったのは行方不明になっている男を好いている人間は誰一人としていないという事実。そんなわけであらゆる人から嫌われているこの男はついに死体となって発見されるのであった。
アル中保険調査員トレースシリーズの四作目でシリーズ最高作に上げる人も多い作品です。キャラとユーモラスな会話で読者を引っ張っていくタイプの作品なんですが、ドーバー警部シリーズのユーモアが賛否両論だったようにこのアメリカンジョークも笑えねえという方がいらっしゃると思われます。 トレースの同棲相手であり知恵袋でもあるチコ(ミチコ・マンジーニの愛称。日伊ハーフ)が非常に魅力的に書かれております。トレースは日本の小説ではあまりお目にかからないタイプですが、アメリカのエンタメ小説ではしばしば目にする粗野で単細胞なタイプ。 本作ではトレースが情報収集(分析能力はない)、チコが謎解きという役割分担となっています。頭のおかしいトレースとまともなチコでうまくバランスが取れているのかと思いきや、チコもちょっとエキセントリックなところがあったりします。 ドーバー警部は上司に持ったら最悪なタイプですが、本シリーズのトレースは絶対に部下にはしたくないタイプ。反抗的、怠け者、アル中、へらず口過多、ちょっと頭がおかしい、そのうえ社長にコネあり(社長の親友)という悪夢のような部下です。 ※いわゆるキャラが立っている作品です。人物造型が深いわけではありません。キャラが立っているというのと人物造型がしっかりしているというのとではまったく意味が違うと考えております。キャラ立ちはしていても人物造型は薄っぺらい作品はよくあります。 ハードボイルド風味だという方もいるようですが、個人的にはまったくハードボイルドではないと思っております。ややこしいトリックはありませんが、トレースが怠けつつも動き回る中で伏線がいろいろと張り巡らされ、関係者が一堂に会するラストではわりとロジカルな謎解きがなされます。ここで本作のタイトルが秀逸であったことがわかります。原題は『Pigs get fat』「豚は太る」ですが、「か死ぬしかない」と後に続けたのは大正解だと思います。 ただの場繋ぎギャグだと思っていた会話に重要な意味があったり、前半のトレースの怠けぶりにも作者の狙い(トレースは別になにも考えていない)があったりと、ミステリとしても面白く読めました。 ただ、けっこう筆が割かれている日系人の集会が本筋とまったく関わりなく、この点はミステリとしても全体の構成としてもマイナスポイントでしょう(面白く読みましたが)。また、日本人の描かれ方が……わかったうえで、ふざけているのか、本当に勘違いしているのか、自分は前者だと思っておりますが。 B級色濃厚で、すでに忘れられつつあるシリーズなんですが、意外と美味しい。 |