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[ 警察小説 ]
この街のどこかに
ハリイ・マーティーノー警部(首席警部)
モーリス・プロクター 出版月: 1957年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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早川書房
1957年01月

No.1 7点 人並由真 2016/09/07 15:28
(ネタバレなし)
 1950年代の英国グランチェスター地方。懲役14年の禁固刑を食らったギャングのドン・スターリングが脱獄した。スターリングと幼馴染みだったグランチェスター市警のハリイ・マーティーノー警部は、若手刑事ディヴェリィとともに脱獄囚を追うが、その途上で現金強盗の被害に遭った若い女性シスリイの殺害現場に出くわす。新たな強盗殺傷事件もまたスターリングに関係する可能性を見やったマーティーノーは、管轄の権限を越えて捜査を敢行。だが逃亡中のスターリングの方もまた、宿敵といえるマーティーノーへの報復の機会を狙っていた…。

 1954年の英国の警察小説。作者プロクターは実際に19年間の勤務経験がある元警官で、それだけに捜査現場や監獄の描写など、臨場感のリアリティは頗るうまい。
 資料(森氏の世界ミステリ作家事典)によるとプロクターは全26本の長編を著し、そのうちの約3分の2ほどの16冊にシリーズキャラクターのハリイ・マーティーノー警部が登場するが、1954年に書かれた本書(プロクターの長編としては第7冊目)がそのマーティーノーのデビュー編となる。
 別個に事件が進行するモジュラー型の警察小説かと思いきや、物語は早めにマーティーノーVSスターリングという主軸を打ち出し、くだんのメインプロットを支えるようにスターリングの2年前に遡る脱獄計画と逃走劇、そのスターリングに関係する当時のイギリス暗黒街の叙述、美人の妻ジュ―リアとの不仲に悩み、色っぽいウェイトレスのラッキイに入れ込むマーティーノーのプライベート描写、被害にあった女性シスリイの職場で競馬の胴元ガス・ホーキンズ周辺の人間模様…と、潤沢な物語要素をハイテンポで投入。地味で渋い? しかし確実に面白い群像劇型の警察小説としての形を小気味よく整えていく。
 なお物語の大きなサイドストーリーのひとつで、若手刑事ディヴェリィと口の不自由なしかし気立ての良い美人シルヴィア(シルヴァー)・スティールとの恋模様が描かれるが、これはまんま同時代の「87分署」キャレラとテディの関係を想起させる。マクベインの『警官嫌い』が1956年の刊行だから、本書『この街のどこかに』が影響を受けた可能性はないが、その逆の方はもしかしたら? ありえたかもしれない。ちょっと興味深い。
 クライマックスもスターリングとの決着寸前、この脱獄囚逮捕の手柄を得て昇進がかなうか、それともこの場で自分が殉職して周囲の反響があれこれなどと余計なことを考えすぎるマーティーノーの人間臭さもとても気持ちよく、さらには「え、そっちの方向に行くの!?」というサプライズに満ちたクロージングのしみじみじた余韻も絶品。今回は気になって読んだ未読のポケミスの中で、なかなかの拾い物に出会った気分である。

 なおマーティーノー警部ものは前述のように原書では十数編の長編が執筆されていながら、翻訳はあと1959年の作品『殺人者はまだ捕まらない』だけみたいだね。今からでも面白そうなものを何冊か、発掘・紹介してくれないものか。


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