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[ 本格 ] 葬られた男 |
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ミルドレッド・デイヴィス | 出版月: 1954年09月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 1954年09月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2016/07/14 04:44 |
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(ネタバレなし)
アメリカの田舎町リットルフォーク。地方紙の記者として最近、転居してきた20代前半の若者ガーナード(ガニィ)・カーは、一年前に交通事故死した土地の名士について調査を始める。その者の名は、享年44歳の薬剤師セルウィン・ボーマン。街の誰からも敬愛される博愛の人物だったが、そんな彼には過去一度だけ大きなスキャンダルがあった。それは22年前に起きた、土地の銀行家で初老の資産家アーネスト・ラブジョイ毒殺事件の犯人という容疑だった。セルウィンの嫌疑はほどなく解消し、彼はその後も街の人気者として生涯を終えたが、事件の真犯人は不明なままだった。迷宮入りした毒殺事件に強い関心を抱いたガニィは、親しくなった街の人々から証言を得て回るが。 50年代のアメリカ女流作家ミルドレッド・デイヴィス(喜劇俳優ハロルド・ロイドの、同じ和名表記の奥さんとは全くの別人)が1953年に著した長編第二作。 全18章の小説は主人公かつ狂言回し(探偵役)のガニィ、そして彼が出会う街の人々の述懐で章ごとに区分けされ、ポケミス解説担当の乱歩はそのスタイルを『月長石』に例えているが、自分が読んだ印象ではフランスのクラシック映画『舞踏会の手帳』なども思わせる。物語の冒頭で死亡した人物が全編のキーパーソンとなる趣向は、先に刊行された英国作品『ヒルダよ眠れ』(1950年)の影響などもあったかもしれない。 派手なケレン味などはまるで無いが、二十人弱の主要な登場人物はほぼくっきりと描き分けられ、ページをめくるにつれて人間関係の交錯と過去の事件の露呈が少しずつ進行していく手際は鮮やか。翻訳も60年前のものとしてはおおむね読みやすい。 タイトルロールの「葬られた男」セルウィンという人間の実像、そして意外な事件の真相が明かされる終盤はじわりと読む側の胸に沁み込む感慨があり、小説的な完成度も含めてなかなか良く出来た50年代ミステリ。特に前者の面では、21世紀の今、あらためて訴えるものも多いかとも思える。 ちなみに作者の未訳の処女作『The Room Upstairs 』(1948) はMWA処女長編賞を受賞。当たりはずれのある賞だとは思うけれど、本書『葬られた男』の手ごたえなら今からでも読んでみたい。 なお本書の評点は、本当に惜しいところで7点に届かず6点。読ませる一冊だとは思うが、もうちょっとサスペンスやストーリーの起伏があってもいいとも感じるから。 |