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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] 死んだライオン <泥沼の家>シリーズ |
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ミック・ヘロン | 出版月: 2016年04月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 2016年04月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2016/05/31 04:13 |
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(ネタバレなし)
英国秘密情報局MI5の遊軍部署「泥沼の家」。そこは重大なミスを犯したり、問題児だったりの、出世コースを完全に外れた落伍者スパイたちの堪り場だった。先の英国政府を揺るがす一大事件に巻き込まれた同組織の面々は、騒乱のなかで仲間の一部と離別しながらも、今日も食えないリーダー、ジャクソン・ラムの下で冴えない任務をこなしている。そんな矢先、部署内で恋愛関係にあるミンとルイーザに、情報局の本陣・保安局から、ロシアの大富豪パシュキンを護衛する任務が下った。その一方でロンドンではラムの旧知の元スパイ、ディッキー・ボウが変死。ボウは死の直前、旧ソ連の大物スパイに繋がるキーワード「蝉」を遺した。ラムと仲間たちは、ボウの死の周辺を調査に当たるが…。 前作にして著者初のエスピオナージュ『窓際のスパイ』が本邦でも反響を呼んだミック・ヘロンの話題作「泥沼の家」シリーズの第二作。本国ではCWAゴールデンダガー賞に輝いた作品で、本年2016年に邦訳されたばかりの新刊である。 ちなみにシリーズものとしては、ほぼ完全に物語は独立しているので本書から読んでもそれ自体は構わないが、第1作を後回しにすると「泥沼の家」メンバー構成の変遷から、前作『窓際のスパイ』の大筋がある程度読めてしまう危険性があり、ここはやはり前作から読むことをお勧めする。 そもそも前作『窓際のスパイ』は、スパイ落伍者の収容部署という、(かつて日本でも数作が紹介されたエスピオナージュ作家、)ジョージ・マークスタインの旧作『クーラー』を思わせる設定が出色。その枠のなかで多彩なキャラクターを縦横に動かした、スパイチーム群像劇の秀作だった。詳述はできないが、その物語にはシリーズ第一弾でここまでやるかという勢いもあり、個人的にもかなりの手応えを感じている。 それで第二作である本作は、すでに読者にはおなじみになった面々プラス新規参入の新メンバーが作中に登場。大筋としては、あらすじ紹介通りの二つの事件が並行して語られていく。しかしやはり詳しくは書けないが、読者のスキを突いてドラマチックな展開を繰り出す作者の手際は今回も健在で、物語が与える起伏感はかなり鮮烈。前作からの続投メンバーと新規参入の男女コンビの交錯も、どこまで現状の関係性が続くのかという緊張感と、個性的な面々が絡み合うチームものの王道的な興趣を並存してかなり読み応えがある。パシュキンの護衛から発展するショッキングな展開、ボウの死に端を発した田舎の村の謎…それぞれのストーリーの求心力もなかなかだ。 とはいえ贅沢を言えば前作の重厚感プラス技巧度に比すると、面白いには面白いが全体的にやや曲のない話…という印象も無くもない(ネタバレを警戒しながら言っちゃえば、前作のような××感が希薄なので)。 ゴールデンダガー賞受賞という事実も悪い意味で期待を大きくしてしまったかもしれないが。いや普通のスパイ小説の面白さは、十分にクリアはしてるんだけどね。 まぁ何のかんの言っても編制メンバーを逐次出し入れしながら継続していくシリーズもの+チームプレイものの面白さは今後も期待できるし、うまく行けばマルティン・ベックシリーズ全10冊のような大河路線にも育つ予感もある。今後も楽しみなシリーズなのは間違いないんだけれど。 |