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[ サスペンス ] 遠い山彦 |
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ダグラス・ラザフォード | 出版月: 1958年01月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
東京創元社 1958年01月 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | 2016/05/28 16:25 |
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(ネタバレなし)
イタリア西北の地中海沿岸にある山村トレアルト。30代のイギリス青年で著述家のアンドルー・カーソンは、16世紀の異才の画家ライモンド・メラの評伝の取材のため同地を訪れる。現地にはメラの遺した当時の肖像画があるが、その絵には時代を超えた呪いが掛かっているという伝説があった。アンドルーはそこで、メラの恋人だった16世紀の娘マリア・ベネアルノドとそっくりな若い美少女マリサと対面する。当年19歳のマリサこそは、正にマリアの血を引く末裔だった。次第にマリサと惹かれ合うアンドルーだが、実家が貧しい彼女には村の金持ち青年ルイギという婚約者がいた。やがてそのルイギが、何者かに殺害される事件が発生して…。 旧クライム・クラブの一冊。イタリア山村のエキゾチシズムを興趣にした作品で、解説で植草甚一はこの作風をハモンド・イネスなどに例えている。それもわからないでもないが、むしろ一番近い日本人におなじみの作家なら、まんまアンドリュー・ガーブだろう。ガーブの地方ものの筋立てをもう少しシンプルにして登場人物を絞り、ちょっとだけ文芸味を増すと、こういう感じのエキゾチック・サスペンススリラーになるという感じだ。 伝説の絵画に秘められた呪いといったオカルト要素はミステリとしてはさほど意味が無いし、殺人事件の犯人当てを主要な謎とする作品でもない(ただし最後に明かされる犯人の意外性は、なかなか印象的だった)。 物語の眼目は、辺境の山村の場でアンドルーが体験する緊張の日々と、彼とヒロインの美少女マリサの恋の行方である。それに加えて、頭数の少ない分、重要な登場人物となるマリサの家族たち(耳と口が不自由な父、世知に富んだ母、好漢の兄、家族思いの弟など)、さらには現地の警部で自分がよそ者という疎外感を抱えた捜査官ヴィヴァルディなど、サブキャラクターはとても丁寧に描き込まれており、その面でも読者を引き付ける魅力はある。 クロージングも余韻を残すいい感じで、小品ながらこういう作品がクライム・クラブの一冊のなかで読めたのは、なんか儲けた感じがする。 |