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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
日本核武装計画―大統領の黒いカバン
海外ベストセラー・シリーズ
エドウィン・コーリィ 出版月: 1972年02月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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角川書店
1972年02月

No.1 6点 人並由真 2016/05/26 16:32
(ネタバレなし)
 地球上にまだソ連が存在していた1970年代。任期7年目の合衆国大統領フォスターは、その年、同盟国である日本の国内に新型の核兵器<第三号セーフガードAMB>を配備。ユーラシア大陸に向けて軍備の睨みをきかした。この措置を北朝鮮は軍事的な挑発行為と捉え、全世界にはかつてのキューバ危機以来の核戦争の緊張が走る。青春時代に太平洋戦争に従軍し、日本への原爆投下作戦にも関わった「私」こと上院議員ヒュー・マクギャビンは、自分の過去への決着の念も込めて今回の核戦争の危機を回避しようと奮闘。彼は、フォスター大統領に与しない立場で世界各国の首脳陣に接触し、有事勃発を避けるための根回しを続ける。だがそんなマクギャビンと協力者たちの前に、アメリカ歴代政府が秘密裏に継続してきた謎の計画「ジーザス・ファクター」の実体が少しずつ浮かび上がってくる…。

 かの瀬戸川猛資が「夜明けの睡魔」の中で呆れつつ激賞した、伝説のカルト作品にして異色のポリティカルフィクション。本作は大昔に購入したまま家の中に眠っていたが、たまたま先日見つかったので、この機会に読んでみた。
 物語は、日本に新型核兵器が配備された現在と、従軍中のマクギャビンの青春時代(1940年代前半)を、バリンジャー風のカットバックで描写(厳密には、一部、ほかの時間軸での散発的な叙述も少し交じる)。そしてこの2つの物語の交錯を経て、現代史の裏面に潜む謎の「JF(ジーザス・ファクター)」計画の正体が明かされる。

 感想から言えば、大ネタは一読ポカーンとするようなあまりにも人を喰ったもので、確かにこれは瀬戸川氏の反応の通り、苦笑しつつも、こんな呆れた思い付きを形にした作者の着想と労力に、まずは感心するしかない。
 いや、この本が現在もし復刊されて多くの人に読まれたら、馬鹿にするな! と怒る読者も多数出るだろうな。Amazonで「バカミス」とレビューしていた人もいたが、正に言い得て妙な感じでもある(笑)。
 それでも小説の技巧そのものはなかなかうまく、各国でマクギャビンが遭遇する細かいエピソードを積み上げていく手際などは印象的(特にイスラエルでの美少女兵士バルバラや、日本の物理学者ナカムラ博士の挿話など)。総勢50人以上に及ぶ登場人物の描写も量感を高め、一冊のエンターテインメントとしての満腹感はそれなり以上に味わえる。最後の決着も余韻があって個人的には好みだ。
 機会があればまずは一読をお勧めする作品ではある。


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エドウィン・コーリィ
1972年02月
日本核武装計画―大統領の黒いカバン
平均:6.00 / 書評数:1