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[ ハードボイルド ]
ダークライト
私立探偵カーニー・ワイルド
バート・スパイサー 出版月: 2016年05月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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論創社
2016年05月

No.1 7点 人並由真 2016/06/05 02:04
(ネタバレなし)
舞台は、第二次世界大戦から数年後のニュージャージー州。29歳の私立探偵カーニー・ワイルドは、温和そうな黒人ジャクソンから依頼を受ける。その用向きは、ジャクソンが勤務する新興宗教教会の伝道者キンブルの捜索を願うものだった。斯界ではそれなりに活動歴のあるキンブルはニューヨークへ講演に向かうはずだったが、ワイルドが目的地に赴いて調べると何やら不審な状況が浮かび上がる。やがて事態は、思いも寄らぬ形の殺人事件にまで発展し…。

 2016年の新刊で、本邦初紹介の1950年代風ハードボイルド(正確には本書は49年の作品)。50年度のエドガー賞最優秀処女長編賞候補にもなった長編で、きわめて折り目正しい仕上がりの、当時の私立探偵小説が楽しめる。20年代末のハメットの長編デビュー以来、すでに私立探偵ハードボイルドのジャンルも成熟。この時期までには多くの名作や名キャラクターが登場していたわけだが、本書でデビューを飾ったワイルドの主人公としての手固さ、その物語の組み立てぶりはなかなか悪くない。
 日本にこれまで紹介されなかったのはたまたま網の目から漏れてしまったのかという感じだが、あえていえば町の権力者から器用に後ろ盾をもらい、警察(のなかの人間味ある人物)ともうまく付き合うワイルドの造形が、清貧と反権力を至上とする日本の古参のハードボイルド読み手に警戒されたのか? という印象は芽生える(まぁマイク・ハマーにしろ、マイケル・シェーンなどにしろ、仲の良い警官キャラはそれぞれいるのだから、その辺は無粋な深読みかもしれないが)。
 
 とまれ物語の方も、私立探偵小説の定石に則って、行方不明の人物捜しから開幕。主人公が事務所を構える港町や、事件に関わる上流階級の住宅地の景観を適度に描写しながら、やがて生じる殺人事件へと好テンポでストーリーを進めていく。
 同時に長編ミステリとしてもなかなか良くできており、以前に小鷹信光が指摘した観測「私立探偵小説というジャンルには意外なほど犯人捜しの興味が普遍的に抑えられている(大意)」のとおり、登場人物の配置や伏線、手掛かりの出し方もソツが無い。逆に特化した部分がないのは弱点といえるかも知れないが、作品としてのまとまりはかなり完成度が高い。これは続刊を読んでみたい期待のシリーズだ。
 
 なお翻訳は、現台風に達者に新訳された旧作私立探偵小説という印象で、なかなか良い感じ。ただ147ページで「ボガード」という表記が出てきたのだけは、ちょっと勘弁してほしいと思ったが。この辺はいつもの論創編集クォリティ。


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