海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ クライム/倒叙 ]
煽動者
キャサリン・ダンスシリーズ
ジェフリー・ディーヴァー 出版月: 2016年10月 平均: 5.80点 書評数: 5件

書評を見る | 採点するジャンル投票


文藝春秋
2016年10月

文藝春秋
2019年11月

文藝春秋
2019年11月

No.5 4点 レッドキング 2021/05/24 18:12
ダンスシリーズ第四弾。言葉とトリックで群衆パニックを引起こし、凄惨な事故に至らせる美形男。犯人の内面サイコ描写からして、お馴染みのメンヘラ殺人鬼キャラのダミー設定で、さて、今回はどんなツイスト?て思っていたら・・あらら、特に捻りという捻りもなく終わってしまい・・まあ、それが肩透かしツイストだったりして。むしろ、ダンス自身の、捜査官として母として女としてのツイスト展開・・ちと、ご都合よろしすぎるが・・の物語が魅力かと。
原題の「Solitude Creek」=「孤独の小川」、主筋の流れから離れた、日系移民の強制収容所エピソードに関する言葉で、何でこれがタイトルに?て思った。 ディーヴァー、日本マーケットでも意識してんのかな?

No.4 8点 Tetchy 2021/02/27 00:06
キャサリン・ダンスシリーズ第4作の本書はいきなりダンスのミスで容疑者を盗り逃すシーンから始まり、その責任を負って民事部へと左遷させられるというショッキングな幕開けで始まる。

このダンス左遷の原因となった<グズマン・コネクション>の捜査と悪戯に騒ぎを起こして死傷者が発生する煽動者の事件、そしてダンスの息子と娘たちのエピソードの3つが並行して語られる。

本書の脅威は暴動、いやパニックと化した集団だ。
正気を失い、パニックとなった人々はそれが恰も大きな1つの生き物のように動き出す。しかしそれは決して秩序だったものではなく、我先にと自分の命を、安全を確保するためならば他人の命をも、文字通り踏みにじってまで助かろうとする執着心が、理性を奪い、人間から獣へと変えさせる。DNAに刻み込まれた生存本能が人を変えるのだ。

そして更に人は自分の命を脅かした存在を知るとそれを排除しようとして、いや寧ろそんな危険に目に遭わせた仕返しをしようとして、再び理性を失い、攻撃性が高まる。やらずには済ませない、子供の頃に芽生えた感情が復活し、本性がむき出しになる。

しかもそれはたった数分のことに過ぎない。人間が理性を失うのが危険を察知し、スイッチが入るのもすぐならば、そのスイッチが切れるのも、例えばパトカーの回転灯が見えた、そんなことで人は理性を取り戻し、人間性を取り戻す。この僅か数分、人間が暴徒と化すだけで多くの犠牲者が生まれる。

そして今回ダンスが対峙する敵は人間の群集心理を利用してパニックを引き起こして不特定多数の人間を死に至らしめる、一生背負う疵を負わせることに喜びを見出している者だ。本書のタイトル「煽動者」はそこから来ている。

それらは全てイベントという非日常で起きた悲劇だ。その日を、その雰囲気を楽しみに来ていたいわばハレの場が惨状に変わるパニックの恐ろしさを思い知らされる。

またキャサリン・ダンスといえばボディ・ランゲージから相手の嘘を見抜くキネシクスが専売特許だが、本書でもそれに関する色々な知識が開陳される。
ただリンカーン・ライムシリーズでは快刀乱麻を断つが如くダンスのキネシクスが大いに活躍するが、なぜかダンス本人が主人公のシリーズになるとほとんどこれが機能しなくなる。これがとても違和感を覚えてしまうのだ。
今回最もキネシクスのダンスが盲目になるのは自分の子供たちに対して隠し事を全く見抜けないことだ。
娘のマギーが学校の発表会で『アナと雪の女王』の主題歌“レット・イット・ゴー”を歌う大役を下りたくなった心境もそうだし―本書ではこの主題歌のタイトルがキャサリンの心を切り替えるための合言葉としてやたらと出てくる。

キャサリン・ダンスシリーズはリンカーン・ライムシリーズよりも家族や恋愛面に筆が割かれているのが特徴的だ。それはダンスが優秀な捜査官でありながら二児の母親であり、更に夫を亡くした寡婦であることが大きな理由だが、それが私にしてみれば物語のいいアクセントになっていると感じている。
連続的に犯行を起こす犯人を追いつつもその捜査の中で家族のイベントや男女関係に揺れる心情が挟まっており、理のみならず情の部分についても触れられ、それが読み物として私にとって読み応えを感じている。

またダンスがかつてミュージシャンを志した過去が明らかになる。プロの道を目指してかなりの努力をしたが、アマチュアとプロの壁を越えることができなかったため、キネシクスを学び、今に至ったとのこと。これはまさにディーヴァ―そのものではないか。彼もまたかつてはフォークミュージシャンを目指したが、大成せず、ミステリ作家になってベストセラー作家になった。

さて今回のようにハッピーエンドを迎えるとシリーズも大団円を迎えたように感じるが、私は再び彼女の活躍が見たいのである。彼女のキネシクスを存分に活かしたシリーズの集大成とも云える作品にはまだ逢っていないと思っているのだから、これで終わりにはしないでほしい。
しかしそれも“レット・ヒム・ゴー”。ディーヴァーに任せるしかないのだが。

No.3 5点 あびびび 2020/01/27 03:42
人が集まっている音楽コンサートや、スポーツ観戦の体育館など、あらかじめ有力な出口を塞いでおいて、場内に煙など発生させ、「火事だ!」とかで先導し、人々のパニックを誘発させる。出口はある程度封鎖状態にしているので、狭い一か所に人々は集中し、頭をぶつけたり、人に踏まれたりして何人かが死ぬ。それを楽しんでいる人物がいるが、依頼者の闇はもっと深く…。

キャサリンダンスはいつもより読みが甘いし、切れ味が鈍い。これは身内のスパイをあぶりだすためだったと思われるが、それはお見事だった。しかし、最後の恋愛劇には同意しかねるなあ。現在進行形なのに(おそらく体の関係も)、男も女もパッと切り替えられるものだろうか?

No.2 6点 take5 2018/11/29 20:18
毎度ながら、どんどん読み進められるキネシクスのダンスシリーズ。
初期よりもキネシクスを前面に出さなくなった気がします。
その代わり、ダンス一家の人間関係(特に子供たちとの)が、密に描かれています。
ラストはベタだなぁと思い、あのラストが別なら7点かなあと。

No.1 6点 HORNET 2017/04/23 21:40
 キネシクスを駆使して嘘を見破る尋問のスペシャリスト、キャサリン・ダンスを主人公としたシリーズの最新作。
 物語は、ある殺人事件の関係者(容疑者)の尋問にあたったダンスが「彼は無実」とその人物を解放したが、直後にそれが当の殺人犯だったことが判明し、捜査から外されるところから始まる。
 その結果回された担当は、コンサート会場の小火騒ぎから起きたパニックにより死者が出たという事件。しかしこれが、不運な事故ではなく実は故意に仕組まれたものだったことがわかり、捜査はにわかに深刻さを増す。続けて映画館でも「仕組まれたパニック」が起き、同一犯の悪質な事件であることが明らかになっていく。
 物語のメインはこちらの事件の捜査なのだが、冒頭の取り逃がした犯人の事件捜査も同時に進行し、さらには同僚マイケル・オニールが手掛けている農場主の失踪事件も間に入って来て・・・と複線の多い話で、いろんなところに話しが飛ぶのでちょっと読みづらい感じはあった。(この複線が「伏線」になるのかは・・・読んでみて)

 ミステリとしての破壊力は同シリーズの(ライムシリーズ含む)高評価のものに比べるとあまり。ただ個人的に、ダンスのシリーズはライムシリーズよりも「人間味」「人間臭さ」があって、謎や仕掛けの部分以外もなかなか面白い。未亡人として二人の子を育てる母としての悩み、恋愛事情など、どこか俗っぽい感じが読み易さを後押ししている。

 余談だが、このシリーズの作品を読む間隔が空くと、はじめいつもキャサリン・ダンスとアメリア・サックスがごっちゃになる(笑)


キーワードから探す
ジェフリー・ディーヴァー
2023年09月
ハンティング・タイム
平均:7.00 / 書評数:1
2022年09月
真夜中の密室
平均:5.25 / 書評数:4
2022年05月
死亡告示 トラブル・イン・マインドII
平均:7.00 / 書評数:1
2022年04月
フルスロットル トラブル・イン・マインドI
平均:5.00 / 書評数:2
2021年09月
魔の山
平均:4.00 / 書評数:1
2021年03月
オクトーバー・リスト
平均:6.50 / 書評数:2
2020年09月
ネヴァー・ゲーム
2019年10月
カッティング・エッジ
平均:8.00 / 書評数:4
2018年10月
ブラック・スクリーム
平均:6.25 / 書評数:4
2017年10月
スティール・キス
平均:6.20 / 書評数:5
2016年10月
煽動者
平均:5.80 / 書評数:5
2015年10月
スキン・コレクター
平均:6.57 / 書評数:7
2015年03月
限界点
平均:6.33 / 書評数:3
2014年10月
ゴースト・スナイパー
平均:6.00 / 書評数:7
2013年10月
シャドウ・ストーカー
平均:6.17 / 書評数:6
2013年08月
ポーカー・レッスン
平均:7.40 / 書評数:5
2012年10月
バーニング・ワイヤー
平均:7.00 / 書評数:8
2012年06月
追撃の森
平均:5.50 / 書評数:4
2011年10月
007 白紙委任状
平均:6.67 / 書評数:3
2010年10月
ロードサイド・クロス
平均:6.33 / 書評数:6
2009年10月
ソウル・コレクター
平均:6.43 / 書評数:7
2008年10月
スリーピング・ドール
平均:6.33 / 書評数:6
2007年10月
ウォッチメイカー
平均:7.55 / 書評数:11
2006年12月
死の開幕
平均:6.50 / 書評数:2
2006年09月
12番目のカード
平均:5.20 / 書評数:5
2005年12月
クリスマス・プレゼント
平均:7.22 / 書評数:9
2005年09月
獣たちの庭園
平均:6.50 / 書評数:2
2004年10月
魔術師
平均:6.09 / 書評数:11
2003年05月
石の猿
平均:6.33 / 書評数:6
2003年02月
シャロウ・グレイブズ
平均:6.00 / 書評数:1
2003年01月
ブラディ・リバー・ブルース
平均:7.00 / 書評数:1
2002年12月
ヘルズ・キッチン
平均:6.00 / 書評数:1
2002年11月
青い虚空
平均:7.60 / 書評数:5
2002年03月
死の教訓
平均:5.00 / 書評数:1
2001年10月
エンプティー・チェア
平均:7.43 / 書評数:7
2000年10月
コフィン・ダンサー
平均:7.19 / 書評数:16
2000年09月
悪魔の涙
平均:6.25 / 書評数:4
1999年09月
ボーン・コレクター
平均:5.81 / 書評数:16
1998年02月
監禁
平均:7.50 / 書評数:2
1997年06月
静寂の叫び
平均:7.33 / 書評数:3
1996年05月
眠れぬイヴのために
平均:4.75 / 書評数:4