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[ 本格 ]
二人のウィリング
ベイジル・ウィリングシリーズ
ヘレン・マクロイ 出版月: 2016年04月 平均: 6.56点 書評数: 9件

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筑摩書房
2016年04月

No.9 6点 弾十六 2022/08/27 09:00
1951年出版。渕上さんの翻訳は安心感があります。訳者あとがきも上質。
私は、本書の献辞「クラリスとジョン・ディクスン・カーに愛情を込めて(To Clarice and John Dickson Carr / With affection)」にびっくり。「訳者あとがき」に渕上さんの解説があるので、そこを参照ください。まあでも渕上さんが触れていないJDC/CDとマクロイさんの共通点を書いておきましょう。
まずは二人ともスコットランド系で、スコットランド愛に溢れた作品を発表しています。それから若い頃のパリ経験があり、フランス語を作中でネタにすることがあります。それからシャーロッキアンであるのも共通点でしょうね。二人ともお互いの作品は好きだと思います。
ここでWebでいろいろ探して発見したマクロイさんのエピソードを一つ。
1950年、ブレット・ハリディ夫妻はMWAアンソロジー(Twenty Great Tales of Murder)のために、いろいろな作家に作品を依頼していた。ハリディはロバート・アーサーの作品を得たかったのだが、なかなか送って来ない。それでマクロイさんに「色仕掛けでも使って、アーサーに作品を送らせてくれ!」と言ったら、Those who know Helen McCloy will understand why an Arthur story arrived within a week or so.(ヘレン・マクロイを知ってる方なら、アーサー作品がすぐ届いたことに不思議はないでしょう) なお、この時のアーサー作品は「モルグの男」(The Man in the Morgue、多分書き下ろし)
JDCもこのアンソロジーに書き下ろし作品「黒いキャビネット」(創元「カー短篇全集3」)を提供していて、巻頭第一作目に収録されています。献辞はその御礼の意味もあったのかも。
さて本書はつかみがバッチリ。一気に物語に引き込まれます。やや中だるみがありますが、最後まで興味深い作品。まあでも私はいつもマクロイさんの作品にはコレジャナイ感を覚えるのです(『死の舞踏』を除く)。
語りに登場人物の内省が多く入るのですが、それがコントロールされ過ぎてて、ちょっとズルい記述方法なのでは?と感じます。探偵小説の性質上、読者に隠している内なる感情は、実は、書いたらバレちゃう内省の時、その瞬間に最も強く登場人物に表出されているはずだ、と思うからです。リアルで細やかな登場人物の内なる声が書かれているマクロイ作品だからこそ、ここの不自然な感じが気に入らないんです。他の方はそんな感想を持たれていないようなので、私の考えすぎなのかも知れませんが…
他の方々の評と言えば、人並由真さんとkanamoriさんのには唸りました。私は全然気づいていませんでした。
ああそれからマクロイ作品は陽光が人の裏側にささない感じです。つまりみんな正直タイプ。捻くれていないんです。マクロイさんの性格がきっとそうなんでしょうね。
ついでにマクロイさんはリアリスティック・タイプとされていますが、探偵小説的なトリックは結構トンデモだと思っています。小説の語り口がリアリスティックで上手なのですが、妄想的なトリックや状況設定は探偵小説がとても好きな人なんだろうなあ、と思わせるのでミステリ・ファン的には好感度が高い。でも、普通の小説が好きな人にはどうかなあ。そこがJDC/CDとの共通点だと思っています。

No.8 8点 蟷螂の斧 2020/02/07 11:16
物語開始早々、殺人事件が起き展開はGood。しかし、その後登場人物の紹介となり冗長・・・。ところがどっこい、そこに本作の仕掛けがあったのです。真相が判明した時点で、通常は、ああ、あそこが伏線だったなどと思うわけですが、本作の場合、冗長と感じられる部分全体が伏線???!!!。動機も今のところ嚆矢(1951年)であり+2点。

No.7 7点 2020/01/14 10:43
ベイジル・ウィリングシリーズ第9作。

適度に芝居じみた派手さはあるも、派手さだけではなく、大人好みのスマートな作品でもある。
そして読みやすくもある。
最初に多くの人物を集めて登場させておいて、普通ならわかりにくくなるところを、その後数人ずつ小出しにていねいに描写してくれるので、とても読みやすい。翻訳物を読み慣れない国内ミステリーファンに親切な海外ミステリーといったところだろう。
作者自身のセンスと特徴によるものなのだろうが、当然に訳者も一役買っているはず。

最後に明かされる真相は衝撃的、というよりも、そんなのでいいの?と、呆れるレベルなのかもしれない。
ということで、ラストにより評価を下げてしまいそうだが、導入部や中途の展開、それに伏線の回収が巧いので、文句の付けようなし、といったところか。

『幽霊の2/3』とくらべれば、ミステリー面では本作のほうがやや落ちるかもしれないが、どれだけ記憶に残るかという点をかんがみれば、本作が上だろう。
ということで総合的には互角か。

No.6 6点 ボナンザ 2020/01/04 20:17
タイトルのベイジルが二人登場する出だしはそれほど意味が感じられないものの、その後の展開が実に考え抜かれており、本格ミステリとして完成度の高い一作だと思う。

No.5 7点 あびびび 2018/01/07 23:52
伏線は張り巡らせていて、単に自分が鈍いだけだと思うが、まさかそこまで深い真相だとは思わなかった。しかし、このサイトに投稿する方々の8割以上は途中で気づくのだと思う。

これでこの作家は何冊目かだが、毎回思うのは、翻訳家の素晴らしさと、文章のうまさ。何気ない比喩が精緻を極めている。

No.4 7点 E-BANKER 2017/07/21 22:01
1951年発表。
精神科医ヴェイジル・ウィリング博士を探偵役とするシリーズの九作目に当たる作品。
原題“Alias Bsil Willing”

~ある夜、自宅近くのタバコ屋でウィリングが見かけた男は、「私はヴェイジル・ウィリング博士だ」と名乗ると、タクシーで走り去った。驚いたウィリングは男の後を追ってあるパーティー開催中の家に乗り込むが、その目の前で殺人事件が起きる・・・。被害者は死に際に「鳴く鳥がいなかった」という謎の言葉を残していた。発端の意外性と謎解きの興味、サスペンス横溢の本格ミステリー~

導入部が実に見事なシリーズ作品。
そして、作品全体に仕掛けられたプロットも実にマクロイらしい企みに満ちている。
最近、作者の作品に接する機会が増えたけど、ハズレがないという意味では、クリスティに比肩するほどの存在。(あくまで私見ですが・・・)

まず導入部は紹介文のとおりなのだが、これは惹き込まれるよねぇ・・・
いったい何が起きているのか、という疑問を感じるまもなく発生する殺人事件。しかも、被害者は疑惑の人物ときている。
否応なくウィリングは事件に巻き込まれるのだが、謎のパーティーの参加者たちが全員クセ者ぞろいなのだ。
文庫版で300頁弱という分量なのに、作者の人物の書き分けは見事のひとことに尽きる。
ウィリングがひとりひとりと関わっていくなかで、読者はますます濃い霧のなかに迷い込むことに・・・

そして終章で突然判明するある事実。
これがかなり衝撃的だ。
似たようなプロットは割と目にするのだが、ここまで鮮やかなのはあまり記憶にない。
大げさに言えば「世界観が180度変えられる」とでも言えばいいのだろうか、実に作者のミステリーらしい仕掛けになっている。

しかも、相変わらず端正なストーリーテリング!
安心してお勧めできるミステリー! (そうでもないかな?)

No.3 6点 人並由真 2016/05/22 11:01
(ネタバレなし)ケレン味に富む導入部から始めていきなり毒殺事件が勃発。そのままニューヨーク市周辺の上流(一部中流?)家庭の面々の描き分けに進んでいく筆の流れは、実にうまい。リーダビリティは格別で、読書メモを取りながらも一晩で読み終えた。

 最後に判明する事件の真相(犯人の正体とその動機)はバカミス…とまでは言わないにしても、大ファールすれすれという印象もある。が、例によってマクロイらしい丹念な、終盤での伏線の回収ぶりが全体の評価を上げている。厚みも手ごろで読みやすい一冊だが、人によっては怒るミステリファンもいるかもしれない。

 ちなみにDr.渕上の翻訳はとても流麗だが、ひとつ気になったのは主要キャラのひとり、ツィンマー医師に対して、その肉親グレタを妹と訳して(日本訳の作中でそう設定して)あること。141ページ目でグレタは50過ぎ、192ページ目でツィンマーは46歳と記述があるんだから、グレタはツィンマーの姉だよね? 訳者もちくまの編集さんも気がつかなかったのかな。

No.2 7点 kanamori 2016/05/08 11:33
ある夜、「私はウィリング博士だ」と名乗る男を街角で見かけた精神科医のウィリングは、タクシーで走り去る男の後を追って、パーティ開催中の邸宅に乗り込む。しかし、その男は「鳴く鳥がいなかった」という謎の言葉を残し、ウィリングの目の前で毒殺死する---------。

ベイジル・ウィリング博士の名を騙る怪しげな人物、目の前で起きる殺人、謎のダイイングメッセージ、いわくありげな夜のパーティと、魅力的な謎の連打で一気に物語に引き込む発端の意外性は申し分ありません。
ウィリングが、パーティに参加していた4組の男女を一人一人訪ね廻る中盤は、やや展開がスローテンポなため、中だるみ感があります。事件の構図そのものが謎の核心であり、それを隠蔽したまま、少しづつ手掛かりを捲いていく形なので、モヤモヤした印象を与えるのはやむを得ないところでしょう。
正統なパズラーを期待している読者には、終盤のスリラー風の展開に不満があるかもしれませんが、それでも、この悪魔的な真相は強烈です。普通なら他のジャンルの小説で使うようなネタを、本格ミステリの仕掛けとして落とし込む作者のアイデア・センスを評価したいです。
ネタバレぎみの余談ですが、本書を読んで、パトリック・クェンティンのパズル・シリーズ初期の探偵役だったドイツ系の精神科医レンツ博士が、戦後の作品から消えた事情を連想しました。そういう時代だったのですね。

No.1 5点 nukkam 2016/04/13 12:58
(ネタバレなしです) 1951年発表のベイジル・ウィリングシリーズ第9作の本格派推理小説で、シリーズ前作「暗い鏡の中に」(1950年)と並ぶ問題作です。「暗い鏡の中に」の方は物語の締めくくり方が不条理で好き嫌いが分かれそうですが、そこを普通の結末に置き換えることは十分可能でしょう。しかし本書の場合は謎解き真相自体がとても大胆で、これは変更は無理でしょう。抑制の効いた文章で描いているので一度読んだだけだとインパクトが伝わりにくいのですが、読めば読むほどにいかにとんでもない真相なのかがわかります。万人受けは望めそうにないとんでもなさですが。


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