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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.2426 5点 十四年目の復讐- 中町信 2018/03/17 17:30
作者後期のレギュラーな探偵役である和南城夫妻と、「浅草殺人案内」の寿司屋の鬼ちゃん親子という、二組の探偵役が共演する豪華?版で、本作は講談社ノベルスで450ページを超える大作です。

複数の密室殺人と、ダイイングメッセージのダブルミーニングによるミスディレクションなどを織り交ぜつつ、バッタバッタと事件関係者が殺されていく例によって中町ミステリのテンプレートどおりの作品に仕上がっています。
ただ、二組の探偵役が別々に調査活動を行い、コンビの会話で事件の整理をしたり、推理を開陳するパートは、情報内容が重複しており、読者は二度同じ情報を読まされている感があります。二組の探偵役を登場させた設定を上手く活かせきれておらず、そのあたりはやはり冗長に感じられました。

No.2425 5点 太閤殿下の定吉七番 - 東郷隆 2018/02/03 21:41
大阪で見つかった太閤秀吉の黄金の隠し財宝が忽然と消えた。東京の秘密組織”NATTO”の関与を疑う大阪商工会議所は、殺人許可書を持つ秘密諜報部員・丁稚の定吉を捜索に送り込むが-----。

”なにわの007”こと、定吉七シリーズの第5弾。
時事ネタを材料にしたパロディと、社会風刺のギャグの部分は、さすがに今読むとピンとこないというか、意味不明なところも多いのですが、松竹新喜劇風のユーモアが愉しいシリーズです。また普通だとドタバタ喜劇で押し通してしまうところを、よく読むと活劇シーンなどは意外と真面目になっていることが分かりますね。

同系統のパロディ・ミステリ「オヨヨ大統領」シリーズが今月復刊されるらしい。定吉七番シリーズもどうかな?(こっちはちょっと難しいか)

No.2424 6点 32台のキャディラック- ジョー・ゴアズ 2018/01/27 15:45
信用詐欺で盗まれた大量の高級車を回収してほしい。保険会社からの依頼を受けたカーニーは、サンフランシスコのジプシー社会の中の詐欺師一族に目を付けるが------だいたいこんな調子で始まるDKA(ダン・カーニー探偵事務所)シリーズ、前作から10年ぶりぐらいの久々の長編4作目です。

怪しげなジプシーの占い師夫婦や多肢多彩な詐欺師たちと、DKA調査員との駆け引きが軽妙で面白いのですが、ハードボイルド風の捜査小説という感じはあまりなくて、クライム・ノヴェルの側面が強いのは好みの分かれるところでしょう。実は、本書はドナルド・E・ウエストレイクとのコラボ企画で、終盤に人気キャラクター泥棒ド-トマンダーと小悪党仲間たちが特別出演するのです。全体的にポップでライトな作風になっているのは、そのことに配慮した結果かもしれませんね。

No.2423 6点 潮もかなひぬ- 赤瀬川隼 2017/03/04 14:21
熱田津に、船乗りせむと月待てば、潮もかなひぬ、今は漕ぎ出でな (額田王)

万葉集に隠されているといわれる秘密・暗合を謎とくという趣向の歴史ミステリ。
有名な女流歌人・額田王(ぬかたのおおきみ)の歌などはむしろ例外で、特殊な万葉仮名で書かれた歌の多くは解読されていないものも多数あるらしい。この難題に、全く門外漢のスポーツ・ライターが挑むというところが面白い。

政治的に無色な万葉集のアマチュア研究家が戦時中に特高に拘束されたというエピソードが前提にあって、万葉集と治安維持法との関連?謎(ホワイ)が興味を引きます。ただ、本書が発表されたのは今から30年も前のこと。最大のサプライズで、ロゼッタ・ストーンのような役割をするあるもののは今では一般に広く知られる情報となってしまっているのが、まあ仕方がないのですが、ミステリとすれば残念ではありますね。

No.2422 6点 ハイキャッスル屋敷の死- レオ・ブルース 2016/09/24 10:21
パブリック・スクールの歴史教師で素人探偵のキャロラス・ディーン登場の、シリーズ第5作(1958年発表)。
レオ・ブルースは、ポスト黄金時代のニコラス・ブレイクやマイケル・イネスとほぼ同時代の作家ですが、文学性や教養主義がミステリを薄味にしていると感じることもある”英国新本格派”とは一味違って、(邦訳された作品だけで見ると)純粋に本格パズラーに傾注した作風が好ましいです。作品個別のクオリティは別にして、クリスチアナ・ブランドに対する”黄金時代最後の末裔”(© 森事典)という称号は、レオ・ブルースにも通じるのではと思います(ちょっと持ち上げ過ぎかも?)。とくに本作は、お屋敷モノ、探偵役の聞き込み調査、関係者を一堂に集めた謎解き披露の大団円と、黄金時代の本格ミステリのオマージュ風味が強く感じられます。
”燻製のニシン”を初めとした加工食品の製造販売の成功で財を成した成り上がり貴族の広大な屋敷が舞台なだけに、まかれたレッドヘリングの数が半端ないですw  ただ、これまでの作品を読んで作者の手筋に通じていると、今回の事件の構図はやや判りやすいかなと思います。また、ルパート少年などレギュラー陣の登場が少ないのでユーモアは控えめですが、多くの使用人など端役の登場人物が個性的に描かれていて作者の持ち味はでています。
あと、レオ・ブルースの作風の特徴と本作を詳細に分析した真田啓介氏による巻末解説が素晴らしいです。何となくぼんやりと考えていた点を全て指摘されていてスッキリしました。

No.2421 5点 裁く眼- 我孫子武丸 2016/09/21 18:54
漫画家を目指すも芽が出ず、露天の似顔絵描きをしていた袴田鉄雄の元に、突如テレビ局から、ある裁判の法廷画を描くという仕事が舞い込む。その裁判は、男性2人を謀殺した容疑で逮捕された女の事件だったが、被告女性を描いた法廷画がテレビで流れた直後、袴田は何者かに襲われる。さらに--------。

法廷画家という主人公の設定がユニークな謎解きミステリです。
テレビのワイドショーで扱う事件の法廷場面をスケッチするために、袴田は毎日裁判所に通うわけですが、物語の半分を過ぎても、美貌の女性被告・佐藤美里亜が起こしたとされる事件の詳細や、傍聴席に座る袴田の前で進行する裁判の様子も、ほとんど触れられません。連続謀殺事件を巡る”法廷ミステリ”だと思っていたので、これはちょっと意外でした。(終盤近くになって、ようやく証拠のねつ造を巡る弁護士と検察の法廷バトルがあって、一応法廷ミステリぽくはなるのですが)。
少しネタバレをすると、本作の中核の謎は、法廷画家を連続して標的にした法廷外の事件の”ホワイ”にあるわけですが、本格ミステリを読み慣れた人には、ある伏線が浮いているため、真相の方向性だけは分かりやすいかなと思います。ただ、浮世離れした社会不適合者のような主人公を支える姪で女子中学生の蘭花ちゃんをはじめ、近所の交番詰めの巡査など、脇を固めるサブキャラクターがなかなかイイ味を出していて、物語の読み心地はそう悪くはありません。続編もありそう。

No.2420 7点 地下組織ナーダ- ジャン=パトリック・マンシェット 2016/09/19 22:34
半端者の過激派グループ「ナーダ」の一員であるブエナベントゥーラ・ディアスは、アルジェリア解放戦争当時の盟友で、今は一匹狼のテロリスト・エポラールに偶然パリで再会した。彼をメンバーに加えた「ナーダ」は、かねてより準備を進めていた駐仏アメリカ大使の誘拐計画を実行に移すことに-------。

フランス”ロマン・ノワール”の旗手、マンシェットが1972年に発表したクライム・ノヴェル。
出世作である前作「狼が来た、城へ逃げろ」と同様に誘拐犯罪を扱っているのですが、アナーキスト集団によるテロというイデオロギー要素があって、本作には、かつて左翼運動家でもあった作者の信念が覗える部分があるように思います。ただ、グループの犯行動機は、思想的なものというより、どちらかというと社会から受ける閉塞感から、という感じが強いです。組織のメンバー誰もがどこかなげやりで虚無的なところがあるのです。
研ぎ澄まされた文体で短いセンテンスを続ける作風が特徴的で、後半の章割りを多くしたスピーディな展開にマッチしています。とくに、パリ郊外の百姓家に隠れたメンバーの男女5人と、包囲した警察隊との銃撃戦のシーンが大半を占める32章が圧巻で、非常にインパクトがありました。
ちなみに、本書の原題は”Nada”。作中のアナキスト・グループの名称ではあるのですが、訳者あとがきによると「何もない」を意味するポルトガル語ということで、救いようのない結末を踏まえると、シニカルで象徴的なタイトルです。

No.2419 5点 挑戦者たち- 法月綸太郎 2016/09/18 17:41
本格パズラーでお馴染みの趣向「読者への挑戦」を素材にして、パスティーシュ、パロディ、クイズ、評論モドキなどなど、ありとあらゆる形式の挑戦状を創作して遊び倒した文体遊戯集。

本書にはミステリの問題編や解決編はなく、ただただ「読者への挑戦」部分だけを99通り並べています。
97番目の「不完全な真空」のなかで、フランスの前衛作家レーモン・クノーが書いた「文体練習」の推理小説版とありますが、それがそのまま本書の創作意図と思われます。
巻末に引用・参考文献一覧があるので、文体模写の元ネタに関しては読者に分かるよう配慮はされてはいますが、作者の博覧強記ぶりに感心はできても、マニアック過ぎる引用元が多いこともあり、ピンとこないものが散見されるというのが正直なところ。大半の読者には、分かったふうな顔をして読むことが求められますw
そんななかで印象に残っているのを数点挙げると、グリコ森永事件の脅迫状風の「和文タイプ」、「こんな”読者への挑戦”はイヤだ!」、クリスティ作品とノックスのコラボ「十戒」、宣伝付きの挑戦状「最多挑戦記録」、名探偵オルメスもののパロディ「挑戦状盗難事件」、「口述筆記」、「黄金比率」、代作クイーンをネタにした「合作者が多すぎる」、マローン弁護士のパロディ「最後の一撃」あたり。
パロディになるとニヤニヤ笑えて面白いと思えるものの、やはり作者にはそろそろ正統な本格パズラーを書いてもらいたいものですね。

No.2418 7点 暗殺者の反撃- マーク・グリーニー 2016/09/17 16:02
孤高の暗殺者コート・ジェントリーは、世界各地で5年にわたりCIAの刺客の群れと死闘を繰り広げてきたが、反撃に転じるべく故国アメリカに上陸、ワシントンDCに潜入した。それを知ったCIAの国家秘密本部長カーマイケルは、外国人暗殺集団らを使いグレイマン狩りを開始する--------。

”グレイマン”(人目につかない男)の異名を持つ元CIA特殊工作員で凄腕の暗殺者コートランド・ジェントリーを主人公とするシリーズの第5弾。マンネリ感なく、今作も面白く読んだ。
シリーズ各話はいちおう独立していますが、”目撃しだい射殺”というCIAのグレイマン抹殺指令が常に物語の背景にあり、今回はその謎の部分を明らかにすることが中核になっているので、シリーズ第1ステージの最終作という趣きがあります。
序盤の、武器や資金の調達という準備段階のディテールから、中盤以降は、例によって多彩な活劇・戦闘シーンの連続で全く飽きさせません。ワシントン・ポスト紙の男女記者や、CIAの女性上級局員、ジェントリーの特殊工作員時代の仲間など、わき役陣とジェントリーとの絡ませ方のさじ加減も絶妙で、(終盤の、女性記者による活躍が都合よすぎるのが気になりましたが)、往年のエスピオナージュ物を彷彿とさせるラストまで、スリリングな展開を堪能することができました。
上下巻850ページを超える長尺なので、一気読みとはいかないものの、スティーヴン・ハンターのスワガー・シリーズなどが好きだった人には躊躇なくお勧めできる冒険小説の傑作シリーズです。

No.2417 7点 血の季節- 小泉喜美子 2016/09/12 18:12
昭和12年の秋、父親の事業の失敗で、その街に引っ越してきた小学生の〈ぼく〉は、某国公使館の屋敷に住むフレデリとルルブルの兄妹と運命的な出会いをする。彼らと夢のような日々を過ごす一方で、兄弟の母親の死や怪奇な事象の目撃、そして戦争の爪痕が、〈ぼく〉の精神を徐々に現実から引き離していく--------。

3年前の「このミス」の特別企画、”復刊希望アンケート投票”で国内部門第2位に入った小泉喜美子の第3長編で、「弁護側の証人」から18年ごしの3部作完結編でもあります。このたび版元が責任を取って?宝島社文庫でめでたく復刊となったので再読してみました。
青山墓地近くで発見された幼女の殺害犯として収監されている死刑囚のもとに、弁護士からの依頼を受けた精神科医が訪れるシーンで幕を開けますが、小説の大部分は死刑囚が語る戦前の少年期の物語で占められています。ドラキュラ伝説がモチーフになっていることは早めに分かるのですが、記憶していたような怪奇性は今回あまり感じられません。外国人の兄妹ら一部の人物を除き、主人公の〈ぼく〉をはじめ、捜査をする警部、精神科医など、主要登場人物の名前が一切明示されない趣向が特徴的で、この小説をメルヘンチックで幻想的な作品にしていると思います。(作者は、のちに別の長編でも同じような趣向を使っています)
以下ネタバレぎみになりますが、最終章での、精神科医による分析結果が、本作を幻想ホラーから合理性のある”謎解き”に反転させたかと思うと、さらに・・・という(ディクスン・カーやヘレン・マクロイの某作を想起させる)多重反転プロットが印象的で、余韻を残すラストと併せて個人的には評価します。ただ、このリドル・ストーリー的な仕掛けは、読者によっては好みが分かれるかもしれませんね。

No.2416 6点 幻の屋敷- マージェリー・アリンガム 2016/09/09 22:59
英国上流階級の高等遊民にしてアマチュア探偵、アルバート・キャンピオンが登場する、1938年から55年までの作品11編を発表順に収録した日本オリジナル編集の短編集2巻目。

ロンドン警視庁のオーツ警視のアドバイザーとして殺人事件に関わる〈本格編〉や、上流階級の揉め事の処理にあたる〈日常の謎〉〈コンゲーム物〉、さらにはクリスマス・ストーリーまで、今回もバラエティに富む内容になっています。
〈本格編〉を中心に印象に残ったものを挙げていくと、表題作「幻の屋敷」では、”家屋の消失”という大掛かりで魅力的な謎が提示される。序盤の伏線が丁寧で(そのため真相は見えやすいですが)まとまりのいい佳作。
守衛が監視する密室状況下で絞殺死体が見つかる「見えないドア」は、小品ながらも切れ味鋭い不可能殺人もの。この盲点をつく手筋は名作「ボーダーライン事件」に似ている感じがする。
「ある朝、絞首台に」も完成度の高い本格パズラー。凶器の拳銃の隠し場所トリックのアイデア(=他の作家も使っていますが本作が元祖かも)だけでなく、キレのあるラストの処理が抜群に光ります。
本格編以外では、キャンピオンが隠れた犯罪を暴く「魔法の帽子」「極秘書類」が印象に残りました。そのほか、ルーク警部から過去の事件を拝聴する2編をはじめ、後期の作品になると謎解きの妙味が薄れてきますが、全体的には前作より楽しめる作品が多かった。

No.2415 6点 古書ミステリー倶楽部Ⅱ- アンソロジー(ミステリー文学資料館編) 2016/09/06 23:23
古書にまつわるミステリを集めたミステリー文学資料館(=新保博久氏)編のアンソロジー第2弾。
名作の誉れ高い坂口安吾「アンゴウ」と、ケッサク冗談小説の皆川博子「猫舌男爵」が抜きん出て面白いですが、既読の作品が多かったこともあり、総体的には前作よりやや落ちるラインナップという印象。

坂口安吾「アンゴウ」は、自身の蔵書に挟まれていた暗号文を解読した主人公が、戦時中の妻の不倫を疑う話。クロフツの「樽」を想起させるような”2冊の同じ本”の複雑で錯綜した動きに気を取られていると、ラストで予想外の着地をみせる。ミステリの謎解きで得られるカタルシスを超越した感動的な作品。
皆川博子の「猫舌男爵」も、ある意味ミステリを超越している、というか、これは全然ミステリじゃないw 山田風太郎の忍法帖に心酔したポーランドに住む大学生を巡る冗談小説で、勘違いによる徹底したお馬鹿ぶりが笑える。書評家の日下三蔵、千街晶之両氏の特別出演も愉しい。
横田順彌の「姿なき怪盗」は、古本屋から本の付属物だけが次々と万引きされる話ですが、”ホワイ”の真相はともかく、万引きのトリックが明示されていないのはミステリとして消化不良。(巻末解説で、新保氏が作者に代わってトリックを解明?しているのが素晴らしいw)
そのほか、泡坂妻夫「凶漢消失」(バカミス?)、乾くるみの蒼林堂古書店シリーズの一編(日常の謎)、逢坂剛の御茶ノ水警察署のずっこけコンビ・シリーズの一編(ユーモア・コンゲーム風)などが収録されています。

No.2414 7点 明日に別れの接吻を- ホレス・マッコイ 2016/09/04 18:36
インテリの犯罪者ラルフ・コッターは、デリンジャーのような大物ギャングになる野望を抱いていた。刑務所を脱獄した彼は、逃げのびた町で脱獄仲間トコの姉で脱獄の手引きをしたホリディと暮らし始め、野望実現の第一歩として、地元警察の幹部の弱みを掴み、小さな町を牛耳る計画を進めるが--------。

米国人作家ホレス・マッコイは、長編第1作「彼らは廃馬を撃つ」など1930年代に3作の長編を出すも全く評判にならず、戦後になってフランスで再出版されたものが、”文学性”で高い評価を受け、本国アメリカでも認められるようになった作家とのことです。フランスからの逆輸入というパターンは、「イマベルへの愛」のチェスター・ハイムズとよく似ており、不条理なノワールものが大好物なフランスならではという気もします。
本書は、すでに名声を得たあとの1948年発表の長編第4作で、ハヤカワミステリ文庫の裏表紙には、”ハードボイルド抒情派”という紹介をされていますが、今でいうクライム・ノヴェルの範疇にはいる作品だと思います。
クライム・ノヴェルといっても、メインとなる競馬の売上金強奪の場面は意外とあっさりした書き方をしていて、「俺」こと主人公のラルフ・コッターの不条理で屈折した造形が一番の読みどころと言えます。
富豪から差し出される大金を拒否する一方で、薄汚れた犯罪による札束には固執したり、富豪令嬢より男好きの欲深い女ホリディを選ぶ。主人公の思考と行為は不条理で一貫性がなく、結局は選択を誤ったことが最後に破滅に繋がってしまいます。子供の時に受けたトラウマからくるある行為と併せて、この不条理感が”文学性”といわれる所以なんでしょうか。

No.2413 6点 敗北への凱旋- 連城三紀彦 2016/09/01 20:34
小説家の柚木は、二十数年前の戦後まもなく横浜中華街の安宿で中国人娼婦に射殺された元大尉の寺田武史という男に興味を抱き、小説の題材にすべく彼の生涯を調べ始める。やがて、ピアニストでもあった寺田が遺した謎めいた楽譜から、男女の狂おしく哀しい人生と、壮絶な真相が浮かび上がってくる---------。

昭和58年に講談社ノベルズで出版された作者の長編第2作。
玉音放送が流れた終戦の日の夕方、空爆で荒廃した東京の空から、真紅の夾竹桃が雨のように降って来るという、序章の情景描写が映像的で美しいですが、真相を知って読むと一転して禍々しく感じるという、いかにも連城風で印象的なシーンです。
夾竹桃を小道具に、恋愛小説と特異な動機のミステリを結合し、ラストで”あるもの”を葬るというプロットなので、たしかに花葬シリーズの長編版と言えるかもしれません。でも、その壮大なホワイダニットの真相が、有名な海外古典作品を想起させる(設定までよく似ている)のは、独創性という点では減点材料ですね。
楽譜の暗号が重要な要素として提示されているのですが、読者が推理に参加するのは困難で、ましてや音楽の素養が全くない身には、解明説明部分を読んでもチンプンカンプン(死語?)な非常に難解なものです。ただ、もともとミステリの暗号解読はさほど興味がないので、個人的にはそれは本作の欠点とは見做さず、さらっと読み流しましたw

No.2412 5点 九つの解決- J・J・コニントン 2016/08/30 18:20
濃霧の夜、急患宅に出向いた代診医リングウッドは、間違えて入った家で銃弾を受けた男の死体に出くわし、さらに電話を借りるため赴いた隣家で女中の絞殺死体を発見する。その後、事件の一報を受け捜査に乗り出した警察本部長のクリントン卿のもとに、「バンガローを調べよ」という匿名の電報が届く-------。

警察本部長クリントン・ドリフィールド卿が探偵役をつとめるシリーズの4作目で、先に邦訳された「レイナムパーヴァの災厄」のひとつ前、1928年の作品です。
本書は、医療関係の化学研究所に所属する職員らの人間関係に起因する殺人というプロットで、細かい手掛かりにも大学の化学教授だった作者の経歴が活かされています。(あるヒントが専門的すぎて、普通の読者に分かりようがないという難点もありますが)。
多重解決ものを思わせる邦題がついていますが、さに非ず。邸宅の男とバンガローの女の2つの変死体の死因が、それぞれ他殺、自殺、事故のどれに該当するか、順列組み合わせで9通り考えられるということで、タイトルは事件に対するアプローチの多面性を現しています。ただ、序盤でクリントン卿とフランボロー警部が消去法で事件の形態をいくつかに絞り込む場面はあるのですが、その後はウヤムヤになっていて、この趣向が十分に活かしきれていない気がします。
また、発表された時代を考慮すると、ロジックを重視したパズラー志向は評価できますし、最終章のクリントン卿のノートによる丁寧な推理説明も好感が持てる一方で、匿名の情報提供の内容を暗号にする必然性や、男の死体が邸宅にあった事情など、いくつか腑に落ちない点があるのが残念なところです。

No.2411 5点 罠の中- 結城昌治 2016/08/27 20:39
犯罪者の更生保護施設「新生会」の会長・矢次は、施設の印刷工場で働く収容者からピンハネを続け、社会事業の美名の裏で蓄財に励んでいた。そんなある日、矢次から借金を冷たく断られた軍隊時代の元部下が怪死し、その事件を契機に、旧悪を暴露する脅迫電話や殺人予告につづき遂に殺人が起きる--------。

「ひげのある男たち」「長い長い眠り」に続き、昭和36年に書き下ろし出版された長編の第3作。
今回はノンシリーズですが、軽妙洒脱な語り口と、とぼけたユーモアという作者の持ち味は前2作と変わららない軽本格ミステリです。けっこう重いテーマも隠されていますが、前科23犯のスリの常習者や、女好きのポン引き、大学出でバクチ狂の屑屋ら、施設の収容者である人生の落伍者たちのユーモラスでペーソスも溢れるやり取りで、シリアスな動機が中和されている感がありますね。
一方で本格ミステリの出来栄えという点では前2作よりやや落ちるという印象。
死亡フラグが立ちまくりの矢次を中心に置いた群像劇という構成のなかで、途中から登場するある人物の役割が推測しやすく、ミスディレクションの手法もあまり効果を挙げていないと思えるのが残念です。謎解き面でも、もろもろの伏線の回収については最後に一応の説明はあるものの、終盤のバタバタとした解決がちょっと淡泊に感じてしまいました。

No.2410 6点 灯火管制- アントニー・ギルバート 2016/08/22 22:53
弁護士のクルックは、フラットの下の階に住むカージー氏とひょんなことで知り合った。風変わりな言動を繰り返すカージー氏に興味をいだき部屋を訪ねると、地方に住むはずの彼の叔母の帽子と手紙を発見、さらに翌朝カージー氏は突如として姿を消してしまう--------。

”私の依頼人はみな無罪”をモットーとするアーサー・クルック弁護士シリーズの一冊。
巻末解説によると、これまでのシリーズ邦訳作品ではクルックの登場場面が限られていて、人物像が十分に描かれているとはいえないようですが、本作では、クルックが住むフラットの隣人の失踪で幕を開け、同じフラットの空き部屋で女性の死体が発見されるという展開なので、クルックは終始出ずっぱり。戦時中ながら、ドイツの空襲とヒトラーをネタにしたブラック・ジョークを連発するなど、ユーモア感覚と悪辣さを兼ね備えたクルックのアクの強さが存分に見て取れます。
謎解き面では、些細なヒントから真相を引っ張り出す堅実な推理の手際と、少ない登場人物のなかで意外性を生み出すプロットは評価出来ます。目立たないですが助手のビル・パーソンズもいい仕事をしていましたね。
なお、訳者あとがきに本書がシリーズ第20作であると書かれていますが、nukkamさんが書評に書かれているとおり11作目が正当です(原題が似ているので勘違いしたのでしょうか)。

No.2409 7点 許されようとは思いません- 芦沢央 2016/08/19 20:34
かつて祖母が暮らしていた村を訪れた”私”は、その地で祖母が起こした殺人事件について回想する。ある理由で村民から村八分の扱いを受けていたうえに、なぜ彼女は末期癌で余命わずかな曽祖父を敢えて惨殺してしまったのか?(表題作の「許されようとは思いません」)----------。

日常の中に潜む狂気をテーマにしたミステリ短編5編を収録。
イヤミス系とか暗黒ミステリという評もありますが、そのテーマ自体をミスリードの小道具に使っている作品もあり、連城三紀彦や米澤穂信の一部作品の系譜に連なるような”ホワイダニット”ものとして秀逸な作品集です。
表題作「許されようとは思いません」は、収録作の中でも隠された動機の異形ぶりが突出していて評価が分かれそうですが、女性読者のほうがより納得性が高いかもしれません。
営業マンが発注ミスを隠そうとしてドツボに嵌っていく様を倒叙形式で描く「目撃者はいなかった」は、終盤にある人物が投げかける一言が重く響く。
「ありがとう、ばあば」では、祖母が子役俳優に育て上げた孫娘から痛烈な一撃を喰らう。かなりブラックなオチは予想の斜め上をいくもの。好みでいえばこれがベストかな。
「姉のように」は、育児ノイローゼから幼児虐待に進むイヤミス系の話ですが、読者の先入観を利用したミスリードの仕掛けの部分が冴えている。
最後の「絵の中の男」は、芸術家の特異な思考形態からくる”ホワイダニット”ものということで、もっとも連城ミステリを想起させる作品ですが、これは落としどころが何となく予測できてしまった。

No.2408 6点 白骨の処女- 森下雨村 2016/08/17 18:50
神宮外苑に放置されていた車の中から帝大生・春木の変死体が見つかる。続いて、新潟の石油王・山津家の令嬢で春木の婚約者でもある瑛子が、血痕と切断された指を残し新潟の海辺にある別荘から失踪した。彼らの友人・永田は、東京の新聞記者・神尾と連携し、事件の真相を追うが---------。

戦前の探偵小説界を牽引した雑誌「新青年」の創刊編集長で、江戸川乱歩らを世に出し”日本探偵小説の父”と称される森下雨村が、出版社をやめ本格的に創作に入った昭和7年(1932年)に発表した”幻の最高傑作”(© 山前譲の内容紹介)です。
本書は、タイトルや漠然と抱くイメージから怪奇幻想もののスリラーのようにも思えますが、アリバイ崩しとフーダニットを主軸にした本格ミステリに分類される作品です。
東京で起きた殺人の時刻に容疑者は新潟から大阪に向かう汽車の中にいたという時刻表トリックは、現在の観点から見ると真相が分かりやすいのですが、「点と線」の四半世紀前の作品であることを考慮すべきで、その先進性は評価できるのではと思います。
動機があまりに大時代的なことや、発端の事件が後の連続殺人と有機的に繋がっていないプロットなど、ツッコミどころはいくつもあるものの、スリリングな展開がつづく後半部は読みごたえ十分です。

No.2407 5点 ブッポウソウは忘れない- 鳥飼否宇 2016/08/14 11:14
野鳥の生態を調べる大学の研究室に所属する”ボク”こと、大学生・宗像翼の周りで起きる”日常の謎”5編からなる連作短編集。

奄美大島に住み、地元の”野鳥の会”会長を務めている作者らしく、野鳥の生態の薀蓄と、謎解きとを上手く絡めたライトな作品集になっています。
三匹の猫のなかで、どれが野鳥のヒナを殺したのか?という第1話、ツンデレ美女が書いたラブレターの相手はだれか?という第2話、変わり者の先輩研究員の不可解なケガの秘密の第3話と、いずれも提示される謎はたわいもないものばかりですが、”思い込みや先入観による誤解から生じる謎”というのが、連作を通して共通する要素となっているのが面白いところです。
実験室で発生した事件の犯人を、インコが告発したように見える第4話が、編中で最も本格ミステリをしていて、伏線の回収と意外なところから飛び出す犯人というフーダニットとしてプロットがよく練られてます。また、連作を締めくくる第5話も(だいたい予想がつくとはいえ)ハートウォーミングなラストシーンが印象的です。