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臣さん
平均点: 5.90点 書評数: 655件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.655 6点 天国は遠すぎる- 土屋隆夫 2024/04/21 11:07
昭和的警察ミステリー小作品という感じだろうか。

冒頭の女性の死は自殺なのか、その後に発生する県庁の課長の他殺にどう関係するのか、などの謎が提起されるが、本作の主たる謎解きはアリバイ崩し、ただそれだけといってもいい。
疑獄事件絡みとはいうものの社会派モノらしい話の大きさはなく、すべてにわたり意外に小ぶりな内容なのが特徴といえる。少しアンバランスな感もする。
被害者を含む当事者は4,5人、刑事たちも2,3人しか登場しない。登場人物の数も個性も控えめだった。

大作や、仰天の真相付き謎解き豪華作品を期待するとがっくりくるだろうが、一点のみを楽しめればいい、という覚悟で臨めば上等な部類のミステリーだろう。むしろ、読後じわじわとこみあげてくるものがあるぐらい。
刑事たちの会話や日常もよい。メグレ物に倣ったのだろうか。

No.654 5点 死体消失- 草野唯雄 2024/04/03 10:05
1995年文庫書下ろし作品。
本格風味、トラベルミステリー風味付きサスペンス。

主婦・小林房子は中盤まで、東京、山形、蔵王で謎の人物に襲われ続ける。狙いは何か?
この中盤までのサスペンスはスムーズすぎる流れで、じつに読みやすい。いや、読み応えなしといったほうがいいかも。
捜査するのは、鑑識官・洋子をはじめとする刑事たち。彼女たちの捜査は、つまずきはあるも総じてスムーズだった。
ただのサスペンスということはないだろうと思って、乗せられて一気に読んだが…

読み始めの自身の推理は外れてはいなかった。でも、外れていたほうがよかったような気もする。
最後にもう一発何かあったほうがいいのだろうが、かといってそれも俗っぽさの上塗りになるしなぁ。最後をどんなに工夫しても、この作品には重みなし、感動なしなのだろうなぁ。

とはいえ久しぶりに草野作品を読めたのはよかった。
文庫の表紙はド派手で、今なら電車の中で人前に晒して読むのが恥ずかしくなるような装丁だった。1990年代(平成初期)でもこの種の表紙があったんだ、とちょっと懐かしめたのも、よかった。

No.653 6点 夜の光- 坂木司 2024/03/30 11:25
主たる登場人物はジョー、ゲージ、ギィ、ブッチの天文部の男女4人。
スパイ風・日常の謎風・青春ミステリー連作短編全5編(どこがスパイ風やねん)。
4編は天文部メンバー各自の視点。最後の1編も個人の視点だが、後日譚的な内容。

暇つぶしに軽く読むつもりだったが、2編目から面白さに目覚めた。
4人の天文部活動における日常の謎と、視点人物のプライベート(どちらかというと家庭的な悩み)とが、各編で語られる。
前者は大好きな分野で、むちゃな推理満載だが、これがおもしろい。
後者はサブストーリーっぽいが、けっこう密度が濃く、これもまたおもしろい。
5編目だけが、なんでミステリーではないのか。きれいにまとめたかったのだろうか。残念な気もするが、青春連作小説としては、こんな感じの最終編がいいのかも。

もっと今風なのかと想像していたが、昭和生まれのおじさんでも無理なく読める青春モノだった。郷愁を覚えるほどではなかったですが。

No.652 6点 13の秘密- ジョルジュ・シムノン 2024/02/03 12:18
「13の秘密」は、2分間あるいは5分間ミステリーみたいなもの。こんなのも書いていたのかとびっくり。センスはあるが、解決はイマイチ。

「第1号水門」は立派なメグレ長編だった。
中年のジャン・ギャバンみたいなおやじ、デュクローが中心人物。謎はいくつかあり、デュクロー対メグレが見ものなのだが、デュクローが押し気味。それほど個性が強い。
ミステリー性はともかくとして、雰囲気は好みである。

最近、半世紀以上も前のモノクロの仏映画をよく観ているが、本書を読むと、その映像が浮かんでくる。今のものはどうか知らないが、活字も映画も、古いフランスものは気取らないところ、庶民派なところに好感が持てる。

No.651 7点 焦茶色のパステル- 岡嶋二人 2023/08/23 16:09
江戸川乱歩賞受賞作。
気合を入れて書いたのだろうな、と思われる。
おそらく伏線でもなく、おそらくミスディレクションでもないと思われる描写が多くあるのが気になった。これも気合を入れすぎた結果か?
そんな調子だから、ミステリー的にはイマイチかと想像していたが、最後は勢いがあったし、ラストに開示された真相も良好だった。
競馬に絡めた背景、真相、トリックはほんとうに素晴らしい。
後半のヒロインたちの行動はサスペンスたっぷりで、ここも見せ場だろう。ただ、後半を読んでいたときはスリラー物かなとも思った。

最後まで読んで話が決着したときには、伏線でもミスディレクションでもない、つまらないと感じた描写が、じつは新人らしい初心さなのだと感じることができた。
最後がよくて、何でもよく見えてしまったのかな?

No.650 5点 殺意の森 釣りミステリー傑作選- アンソロジー(出版社編) 2023/08/01 17:44
釣りをテーマとした短編ミステリー集。山前譲編。
タイトルには「海」とあるが、それには限らず川や釣り堀もある。
7作家による7作品が収めてある。

幻の魚(西村京太郎):最初の作品。まずまずの出だし。
溯死水系(森村誠一):これも平均的。流れはよい。追悼読書ができたのはよかった。
海の修羅王(西村寿行):久々に寿行氏の作品を読んだ。重厚で読み応えあり。ミステリーとは言いがたいが・・・
鎌いたち(久生十蘭):初めての顎十郎モノ。まずまずか。
寒バヤ釣りと消えた女(太田蘭三):鯉四郎シリーズの1つ。軽いがストーリー性があってよい。推理物とは言えない。
谷空木(平野肇):7編の中では十分なミステリー性。伏線も色々あり。
眼の気流(松本清張):真打登場。かなり無理がある。らしさはある。

釣りはやらないので積読状態を続けようかと思っていた本。
本棚で目にとまり、義務感から読んでみた。
読んでみれば釣りらしさが、十分にあり、少しあり、ほとんどなしに分かれる。らしさのあるものは読みにくいかと思えばそうでもない。専門性がほとんどないということなのか?
それに渓流モノだと山岳モノにも近く、いい感じに読むことができた。

No.649 6点 ゼロ時間へ- アガサ・クリスティー 2023/07/11 15:54
さすがクリスティー、いろいろとアイデアが出てくるのですね。
プロットはすばらしいし、登場人物どうしの情感もいろいろあって楽しめるし、それに犯人の設定もいい。しかもスイスイと読める。

ただ好き嫌いが多いというのはよくわかる。
ミステリーを決定づける何かが足らないからでしょう。というか、こういったアイデア勝負では喜べないっていう人が多いのでしょう。もっと手荒な反則技のほうがいいのかもしれません。ポアロでは役不足だからバトル警視が探偵役になったのでは、と思ってしまいます。ポアロが陰ながら応援しているように読めたのは、グッドです。
それと、人並由真さんのマクワーターに対する言及は、まさにそのとおり。別の手段を採用できなかったのかな?
とにかくボロの出やすい、突っ込まれやすい作品なのですよね。

以上、どちらかというと長所より欠点が気になった作品ですが、全体として酷い出来ということもないし、まあまあ楽しめたので評点はごく普通です。なんともいえぬ奇妙なロマンス要素が効いていたのかもしれません。

No.648 6点 感染遊戯- 誉田哲也 2023/05/31 11:29
なるほど、こういう背景だったのか。
「シリーズ最大の問題作」という惹句は、こういう意味だったのですね。

姫川玲子シリーズのスピンオフ作品で、主人公はシリーズ最大のくせ者、勝俣健作、通称ガンテツと、倉田と、葉山。いずれも警察関係者です。
上記各主人公が各話で活躍する短編集のように見せかけて、じつは最後の4章目で話がつながる大長編作品です。

最後の最後に背景や真相は明かされますが、想像もつきませんでした。社会派ミステリーファンなら、解説だけで感づくのでしょうか。
いや、勘で背景を見抜けたとしても、真相にはたどり着けないでしょう。

この社会背景にもとづけば、ミステリー作家なら推理小説は作れそうですね。ただ面白いかどうかは作者の腕次第。本作はうまくまとめてあります。が、今までに読んだシリーズ作品とは毛色が異なるので、戸惑いました。

No.647 7点 99%の誘拐- 岡嶋二人 2023/05/16 13:57
誘拐モノといえば、彼らお二人さんが超有名。
ITを駆使した誘拐ミステリーです。
30年前のITといえば、今読んで耐えられるかなと心配でしたが、そんな古さは感じられず、むしろその時代のIT技術って意外にすごいと感心しました。
ラップトップとかパソコン通信とかの用語は死語というよりは、郷愁を感じさせてくれ、心地よくもありました。

しかも、最初の手記で読者をじんわりと惹きつけておき、その後は緊迫の倒叙スタイルというミステリーとしての流れも申し分ありません。読みどころはたっぷりあります。
ただし、最後にもう一つ何かあればという感じがしないでもありません。

No.646 4点 人間動物園- 連城三紀彦 2023/05/16 13:54
著者お得意の誘拐ミステリー。
連城らしいといえます。第1部での現場の違和感はなんとも奇妙です。
でも、誘拐モノならサスペンスでもっと読者を惹きつける手法を採ったほうがよかったのではと思います。
多視点というのも、物語に入り込めない要因になるのでしょう。私にとって、ということなのかもしれませんが。

総じて期待に反して、という感じの作品でした。

No.645 7点 悪魔はすぐそこに- D・M・ディヴァイン 2023/02/14 10:53
舞台は大学。
登場人物は教授、講師、学部長、学長、事務局長、事務局員、学生など、大勢。
そんな派手な舞台設定で、事件もほどほどに派手だが、謎解き物としての派手さはまったくない。人物描写の一本勝負で、巧妙なミスディレクションを用いて読者を混乱、誘導させる、いたって地味なスタイルである。

三人称多視点で語られるが、もちろん計算づくで、いわゆる神視点ではなく、章ごとに変わっていくやり方である。そこまでしなくても、という感じがしないでもないが、読みやすいので、それによる混乱はなかった。いやあったかも(笑)

タイトルにも引っ掛かった。「悪魔」という字句で、横溝のおどろおどろしさを連想してしまう。多少のどろどろ感はあれど、読みやすさも手伝ってあかるささえ感じてしまう。これは一部の登場人物たちによるものだろう。道化役とまではいわないが、なんとなく場を和ませる。

もう少し本格ミステリとしての派手さがあったほうがいいとは思うが、過去の事件の絡め方はすばらしいと思う。いたってシンプルなんだけどね。
このシンプルさは、いつも伏線も気にせず直感勝負で犯人当てに挑んでいる筆者には都合がいいはずだが、まったくダメだった。

No.644 7点 名探偵に薔薇を- 城平京 2022/12/21 17:42
瀬川みゆきを素人探偵とした2編の連作中編集。といっても、2編目で完結する1長編といってもいいでしょう。
いずれも、「小人地獄」という毒薬が絡みますが、全く趣向は異なり、本格要素がたっぷりで、かなり楽しめました。さすが鮎川賞最終候補作。

2編目の「毒杯パズル」はホワイダニット物でかなり凝っています。そこまでしなくても、といった感もありますが、だからこそ評価されたのだともいえます。1編目の「メルヘン小人地獄」も決して悪くはなく、謎解きおまけ付きの、2編目真相の伏線部、と捉えてもいいでしょう。
1編目の視点が三橋荘一郎(2編通してのもう一人の主人公か)であるのに対し、2編目の視点を瀬川に変えているところは謎解きに役に立つかも。いやぁ、読者が完全に謎解きするのは無理でしょう。

イヤミスっぽさがあるのと、瀬川のキャラが嫌われそうなタイプであることとが、万人には受け入れがたいところかもしれません。
瀬川のキャラが最終的に変わってしまったような気もしますが、その点は意に介しません。

No.643 5点 乾いた肌- 佐野洋 2022/11/16 16:08
表題作他、「逃げる」「嘘」「宣告」等、計10短編の雑多な作品集。
それぞれ2,30ページぐらいか。
短いなりにうまくまとめてある。「宣告」や「娘の手」は意外な結末で、しかもちょいブラックな印象。流石である。
でも面白いものだけではなく、次作品を読むのをやめようか迷ってしまうようなものも多いのは残念。
若いころに短編集を何冊か読み、好みの作家さんではないと決めつけていたが、短編も長編も読んだのはわずかなので、これからは少しは読んでみたい。本格ミステリのご意見番のような位置付けでもあったので、どれだけの腕前だったのだろうか、ほんの少しだけ期待している。

No.642 7点 扉は閉ざされたまま- 石持浅海 2022/10/24 19:10
CC&密室&倒叙モノ

大学時代の軽音楽部の同窓会で7人が集まり、そのうちの一人、新山が殺される。犯人は他の一人である伏見。密室で殺される点も冒頭であきらかにされている。

動機当てなのだろうなあと予想はしたが、中途の犯人の心情描写から、いったい何を隠しているのか、それが動機とどうつながるのか、それとも動機なんて全く関係ないのか、わからなくなってしまう。とにかくサスペンスで引っ張ってくれる。

最後に明かされる動機自体は好みではなかった。でも中途の犯人の心情(心配ごと)には納得した。
読み終えてわかる多くの伏線や、素人探偵・優佳の謎解きには感嘆した。
どこに伏線が潜んでいたのか、あまりにも些細すぎてわからないような小説もあるが、本書はわかりやすい。きわめてユーザーフレンドリーで、読み直しするほどではなかった。
そしていちばん気に入ったのは、ラストの優佳の犯人への対峙の仕方。この締め方がこの小説にはピタリとはまっている。

ところで本書は碓氷優佳シリーズの第1作ですね。このあと、どういうふうに続いていくのでしょうか。興味がふくらみます。

No.641 5点 興奮- ディック・フランシス 2022/10/07 16:11
ディック・フランシスは人気もあり、評判もよく、いままで勧めてくれる人もいましたがそのまま放置し、今回やっと手にとった次第です。
基本的にはスパイ・潜入捜査物なので、その字句を思い浮かべただけでわくわくしてきます。
競馬界の薬物疑惑というのも個人的には新鮮だった。しかも程よい謎解き部分があるのもよかった。

ただ、主人公がもっと変なやつでもよかったような気がします。スパイだからストイックなのはいいとしても、読者に対してはもっと奇異な面を見せてほしい。
それに、スリルについても予想していたのとはちょっと違っていた。

初めてで不慣れなだけなのでしょうか。
とにかくあと数作は読んでみます。

No.640 6点 蓬莱- 今野敏 2022/10/07 10:15
今野敏氏が描く仮想世界、なんて勝手に想像していたが全く違っていた。
ゲームの販売をめぐる、零細ゲーム開発販売会社の社長、社員たちが謀略に立ち向かう、至極、現実的な冒険小説だった。ちょっと違うかな??
ヴァーチャルな内容がないわけではない。むしろテーマといってもよい。
中国古代史上の徐福が日本の現代史をプログラミングした、なんていう話はなかなか面白い。

キャラがまたすごい。
主人公の社長、渡瀬は意外にフツーだが、やくざにやられながら突如として変貌して、惹きつけてくれる。
その他頭脳明晰な社員や、やくざ、謎のバーテンダーなど種々登場する。
唯一スマートなのは安積警部補。いちおう神南署シリーズなのか。
さすが今野氏、登場人物についてはエンタメ小説として文句のつけようがない。

30年ほど前の小説で、フロッピーディスクやファミコンなんて語句が登場する。秒進分歩の世界なので古典を読んでいるような感覚だった。社会情勢も今とまるで違う。
当時を知る貴重な史料になるかもしれない。

リアルタイムに読んだとしても違和感を覚えただろうが、今読めば時代のずれが手伝って、ハチャメチャ感しかない。
途中、こんな本を今読んで満足のいく読後感が得られるのだろうか、と心配になったが、結果的には楽しい読書だった。単純すぎるのかなあ。

No.639 6点 テロリストのパラソル- 藤原伊織 2022/04/28 17:51
元学生運動家で、現アル中バーテンダーの島村が新宿中央公園で起きた爆発事件に遭遇する。その被害者の中にかつての仲間がいた。
巻き込まれ型素人探偵ハードボイルド。

冒頭の事件はどでかいし、タイトルもたいそうだし、こういうやつの真相はきっと、と思って終盤まで読み進むと・・・
こういうところに落ち着くのか。まあ、それはそれでよし。

ミステリー性はもちろんあるが、それよりも主人公のキャラでもっている部分が大きい。主人公を取り巻く人物たちもよい。ワルはワルらしいというのもよい。
いろんな直木賞の選評を見ると、人間が描けていないという評がかならず出てくるが、本作はそうではないという典型例なのでしょうね。
個人的には、会話のテンポよさが心地よく、そこに魅かれた。

No.638 6点 太陽黒点- 山田風太郎 2022/03/16 18:00
伏線はあるものの、それだけでは到底、犯人や真相には辿りつかず、謎解きミステリーという印象はまったくありません。そもそも後半にいたるまで事件らしい事件がありませんしね。
だから、最後の章の独白のような語りは、謎解き小説の真相解明というよりは、とってつけたような別物語のような感さえします。

結局のところ、物語の流れと、「死刑執行・〇カ月前」という章タイトルから想像できる結末とで楽しむサスペンス小説といってもいいでしょう。まあ、サスペンス的には十分に楽しめました。

以下ネタバレですが。

斎藤警部さんもご指摘されているように、途中までの中心人物が捨て駒だったというのは面白いところです。でもどうせなら、最後の最後まで中心人物風に描いてほしかったかな、という気がします。
なぜ中心から外れたのかな、と疑問を抱いて何度もページを行き来しながら謎解きに挑むのが、本当の謎解きミステリーの読み手なのかもしれませんが、疑問に感じただけで終わっちゃいました。

No.637 7点 いつか、虹の向こうへ- 伊岡瞬 2022/02/07 10:41
ある不祥事で服役もした元刑事・尾木遼平。ボロボロのやさぐれ中年といった感じか。妻は逃げたが、売りに出す予定の家で3人の居候と奇妙な同居生活を送っている。そんなところに一人の女性(少女)が転がり込んでくる。そしてその女性がからむ殺人事件に首を突っ込む。

4,5年前から、近くの大型書店で平積みされた著者の文庫本が気になっていた。
「悪寒」「代償」「奔流の海」などのタイトルからは、ちょっと重めの、古いスタイルの社会派風推理小説を若手作家が時代に逆らって書いているんだな、と勝手に想像していたが、本書はなぜか希望のある明るめなタイトルで、内容も想像と違っていた。
しかも若手作家ではなかった。ペンネームからなぜか若い人を思い浮かべていた。

本書は横溝正史賞を獲ったデビュー作。しかもハードボイルド。その後の作品のジャンルは定かではないが、デビュー作は、ミステリー風味は控えめにして、かっこよく文章で決めてやろう、という意気込みだったのだろうか。
でも本書は、文章はハードボイルドらしくないし、作風やスタイルも全くそれらしくない。読み進みながら、なぜと思うようなところがあれば、その後何ページか、何十ページか後に、懇切ていねいに説明してくれる。このパターンが多い。実に親切なつくりである。そしてスピード感もある。
主人公の尾木は敵にやられまくるが、それでも立ち向かっていく。あまりにも熱すぎる。クールさは感じられない。このぐらいのほうが読まれるのだろう。この点もハードボイルドらしくない。

ということで本書は、読みやすく万人受けするハードボイルド風ミステリーだった。
謎や謎解きに関しては、どんでん返し(的なもの)もあり、けっこう楽しめた。

No.636 7点 夜の記憶- トマス・H・クック 2022/01/22 20:39
ミステリー作家である主人公が依頼を受けた50年前の少女殺害事件の真相の調査と、主人公の悲しい過去とが交錯しながら話が進む、陰鬱だけど、わくわくしながら読める物語だった。

素人探偵の捜査は聞き取り中心で意外に古典的。しかも女性の相棒付き。
もしかしてオーソドックスな本格推理物かと思いきや、ラストはこうきたか、という感じ。
こういう結末は予想外だったが冷静に考えれば、クックらしいとも言えるし、悪くはなかったどころか、むしろ好みだったのかも。
ただ、主人公の過去の挿入が多すぎて匂いすぎるのは欠点かな、いや長所なのかな。

本書はタイトルから、過去に読んだような気がしていたが、内容に全く覚えがなかった。気のせいだったようだ。

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臣さん
ひとこと
あいかわらず読書のペースが遅い。かといってじっくり読んでいるわけではない。
好きな作家
採点傾向
平均点: 5.90点   採点数: 655件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(14)
東野圭吾(12)
アガサ・クリスティー(12)
松本清張(12)
アーサー・コナン・ドイル(11)
横溝正史(11)
今野敏(11)
連城三紀彦(10)
森村誠一(9)
内田康夫(9)