tockyさんの登録情報 | |
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平均点:5.75点 | 書評数:4件 |
No.4 | 5点 | 蜃気楼島の情熱 横溝正史 |
(2017/04/19 18:26登録) 「ねえ、(磯川)警部さん、推理の上で犯人を組み立てることはやさしいが、じっさいにそれを立証するということはむつかしいですね」 そう前置きして金田一耕助が語り始める推理はしかし、立証よりもむしろ実行そのものの至難を感じさせる。街中で堂々と刃物を振り回す通り魔と違い、一般的な計画殺人はその一部始終を秘密裏に行う必要がある。つまり絶対人に見られてはならないわけだが、果たしてそれは可能だったろうか。「これは非常に計画的な犯罪なんですよ」と金田一はさらり言うが、私には奇跡のなせる業としか思えない。 本作中最大の驚きは金田一が語る犯人の動機だ。「まさか!」と思ったが、結果は彼の推理に通りで2度驚かされた。まあその辺については、日本の法律は「横溝ワールド」の感知するところではないのだと割り切るしかないだろう。 |
No.3 | 4点 | 獄門島 横溝正史 |
(2017/04/10 17:34登録) 意外性と説得力はミステリーの両輪と言えるが、「獄門島」では後者が極端に軽視されている感が否めない。工夫が足りないのではなく、工夫に凝り過ぎた結果という気がする。 |
No.2 | 8点 | 本所深川ふしぎ草紙 宮部みゆき |
(2017/04/09 14:16登録) 読む前は本所七不思議宮部みゆき版かと思ったが、そうではなく、七不思議はあくまで各々の物語を彩るエピソードとして登場する。また、本家の七不思議自体が無関係な逸話の寄せ集めであるのと同様に、各短編間の関連性、連続性はない。要するに七不思議というキーワードで一括りにしたオムニバスである。 出色なのは、第一話「片葉の葦」。すべてを知った結果主人公の心は慰めようのないほど打ちのめされる。この作品集の中で最も後味が悪い物語と言えるが、それだけに気を取り直して前を向いて歩こうとする悲壮な思いが強く印象に残る。 第二話「送り提灯」も中々味わい深い。けれど、もやもやする部分が随所にあって、それらを繋ぎ合わせると「何だか納得が行かない、この話、もっと裏がありそうだ」と勘繰ってしまう。もっともそれこそが、考え過ぎる(猜疑心旺盛な)読者向けに作者が仕掛けた巧妙な罠だったのかもしれない。 |
No.1 | 6点 | 悪魔の手毬唄 横溝正史 |
(2017/04/01 17:41登録) 文句あり過ぎだがなぜか面白い小説だ。 で、その文句というか疑問点の数々だが、それを述べるとどうしても事件の核心部分をバラす結果になるものばかりなので、残念ながら投稿は控えざるを得ない。ただ一つ、これは大丈夫そうなのがある。それは毒草「お庄屋ごろしこと沢桔梗」についての記述である。 先ず金田一耕介等が多々良方庵の草案でそれを見つけた時、「それは桔梗の花のようである」と状況説明があるが、沢桔梗の花は桔梗にまったく似ていないのだ。ちなみに葉の形もかなり違い、学会にはキキョウ科から分離独立させるべきだとの意見もあるらしい。 次に、同場面で金田一がその草を手に取ると、彼に随行した総社の旅籠井筒の女将おいとが突然金切り声を上げて触っちゃだめだと注意する。しかし、沢桔梗は確かに毒草のようだが、実際のところ「触るな危険!」(例えば鳥兜のように)というほど猛毒の草でもないようで、山野草図鑑でも特に毒草表示をしていないものが一般的と見受ける。 第3は2番の延長線になるが、「本当にあれで人を殺せるの?」という疑問が必然的に湧く。だからこそ犯人は毒を盛った上で絞殺したんじゃないかとも考えられるが、後日の検死結果によれば、「絞殺するまでもなかった」とのこと。こうなると沢桔梗はやはり猛毒なのかという疑念が再び湧くが、そこでふと我に返る。 そうだ、小説の世界では、鯨だって自由に空を飛べるのだ(笑) 優れたストーリー・テラーはしばしば読者を幻惑し、現実と非現実の境を曖昧にさせる。私は、この小説で起こる一切の惨劇を生んだ元凶は多々羅方庵に他ならないと思っているが、村人達が口を揃えて「きょうとい(怖い)」と評するこの人物も所詮作家の創造物に他ならない。その点に思いを致せば、本当にきょうといお方は、彼を生んだ横溝正史氏その人と言ってもよさそうだ。 |