痩せゆく男 リチャード・バックマン名義 |
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作家 | スティーヴン・キング |
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出版日 | 1988年01月 |
平均点 | 6.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 5点 | メルカトル | |
(2019/12/27 22:25登録) 痩せてゆく。食べても食べても痩せてゆく。老婆を轢き殺した男とその裁判の担当判事と警察署長の3人に、ジプシーの呪いがつきまとう。痩せるばかりではない、鱗、吹出物、膿…じわじわと人体を襲い蝕む想像を絶した恐怖を、モダン・ホラーの第一人者スティーヴン・キングが別名義のもとに、驚嘆すべき筆力で描きつくした傑作。 『BOOK』データベースより。 物語の大筋が単純な割りに460ページは長いでのではないでしょうか。無駄な描写を省けば300くらいで十分収まる内容だと思います。評者としては心理サスペンス的なものを期待していましたが、ダイレクトに伝わってくる恐怖感がなく、解説にもあるように多分に読者の想像力を必要とする小説となっています。 それにしても、これが名義こそ違え世界のスティーヴン・キングかと思うとかなり拍子抜けです。私は『キャリー』が好きでした、映画しか観ていませんが。DVDも持っています。そういった作品に比べると、映像的に優れた描写が足りないせいか、情景が浮かんでこないし、第一に読みづらいのが厄介でした。これは原作者のせいでもあり、訳者のせいでもあると思いますね。本音を言えば、キングは文章が下手なのかと勘繰りたくもなります。何しろ他作品を読んでいないので何とも言えませんが、こんなものではないと信じたいというか、希いたいです。 終盤の疾走感や落としどころは良かったと思います。特に呪いを掛けたジプシーの長老と主人公の邂逅は、これこそ映像的だったのではないかと。しかし何度も言いますが、日に日に痩せていく恐怖と向き合う主人公の心理状態を掘り下げていく描写がもっと欲しかったですね。そこが物足りなさを生んだ原因となっている気がします。それさえクリアしていれば更なる傑作になったと思いますね。 |
No.2 | 7点 | Tetchy | |
(2018/08/01 23:50登録) 肥満の問題は現代社会の最大の関心事と云っていいだろう。もう実に数十年に亘って数々のダイエットが紹介され、そしてダイエット本がベストセラーの上位に上ってきたが、今なおそれが続くのは決定的なダイエット方法がないからだ。 そう、現代人が最も悩まされているのは肥満なのだ。 しかし本書の主人公ウィリアム・ハリックは全く逆。彼は食べても食べても瘦せていってしまう。 この現代社会の抱える問題とは真逆を行くウィリアム・ハリック。 この食べても食べても太らず、むしろ痩せていく男ウィリアム・ハリックはまさしく羨望の的なのだが、これがキングの筆に掛かるとこの上ないホラーになる。彼はジプシーの老婆を誤って轢き殺すことでそのジプシーの老人に痩せていく呪いを掛けられてしまうのだ。 本書はこのウィリアム・ハリックが徐々に瘦せゆく過程を描いたホラーでありながら、タイムリミットサスペンスの妙味も含んでいる。通常タイムリミットサスペンスとは、全てが手遅れになる「その日」、もしくは訪れるべき「その日」に向けて、日数がカウントダウンされるのだが、本書ではウィリアム・ハリックのどんどん減っていく体重の数値がその役割を果たしている。この辺の着想の妙はまさにキングならではだ。 本書はリチャード・バックマン名義で刊行された作品で、開巻されて目に入るのは妻への献辞。その妻の名はクローディア・イーネズ・バックマンとなっている。 知っての通り、キングの奥さんの名は作家でもあるタビサ・キングである。そう、キングは自身がバックマンとは別人であると欺くために架空の奥さんの名を仕立て上げたのだ。しかも作中人物に「まるでスティーヴン・キングの小説みたいだ」と云わさせるまでして別人であることを主張している。 それでも世間の目はごまかせず、ファンの間ではキング=バックマンではと噂され、とうとう自白したとのこと。いやあ、なかなか文体や雰囲気などは変えられないのだろう。本書はそのきっかけとなった作品で本書刊行翌年の1985年にキングはリチャード・バックマンを封印したとのことだった。 ウィキペディアによれば元々は当時の1年1作家1作品というアメリカ出版界の風潮に、多作家であるキングが別名義を仕立てることで2冊出そうとしたらしいが、既にベストセラー作家になっていたキングが別名義でどれだけ売れるのか試したかったとも云われている。しかし上に書いたように本書刊行後、キングであることを明かすとこの作品の売上が上がったそうだ。 作品の質よりもビッグ・ネームに読者は惹かれる。作中、人生はツーペーだ、つまり釣り合いは取れてるとハリックはタドゥツに云う。彼が娘を轢き殺し、その代償で痩せていく呪いを掛けられた。これがツーペー。だからおしまいにしようと。しかしタドゥツ・レムキはそんなものは存在しないと否定する。 上に書いたようにバックマン名義よりもキング作品であったと知られたことで売り上げが伸びるのであれば、やはり世間はいい作品であれば売れるといったほどツーペーではないようだ。そういう意味では本書はキング自身の人生をも証明した予言の書と云える、と考えるのはいささか考え過ぎだろうか。 |
No.1 | 7点 | ∠渉 | |
(2015/02/22 21:06登録) 痩せる、ひたすら痩せる。キングが描く「痩せゆく恐怖」はアイデアたっぷりで、日常がしっかり歪んで、書き手の意志がこれでもかと伝わってくる、もはや感動の、熱い熱い恐怖小説だった。とくに本作は、しっかりしたアクションがあり、ユーモアのセンスも光っていて、エンタメ色も強い。元が別名義での作品だったからの遊び心でもあるけれど、文句なしに面白かった。ごちそうさま。 |