死刑執行人のセレナーデ |
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作家 | ウィリアム・アイリッシュ |
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出版日 | 1959年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 5点 | クリスティ再読 | |
(2023/06/17 21:37登録) ウールリッチには珍しい?ミッシングリンク連続殺人....なんだけど、ポケミス裏表紙の解説がちょいとバレてる。この頃の編集、結構雑だからねえ。 場面場面はなかなかイイのがあるんだよ。中盤で金持ち女のコンパニオンとして、青春と才能を空費したオールドミスが「わたしの最初の独唱会」のアイロニーに嘆く姿、知恵遅れの青年が殺人犯が吹くヤンキードードルの口笛を覚えきれていないのを証明するクダリなど、「悲しい人々」を描かせるとウールリッチの筆が乗るなあ、というのを実感する。 いやソツなく事件を記述して、田舎の島で負傷後の静養をするNYの刑事、そして島で出会う画家の女、出会いと恋を事件に絡めつつ....ウールリッチ節は出過ぎず、それでも出る時はしっかり。サクサク殺されていくスピード感もあるし、犯人と目された知恵遅れの青年を村人のリンチから救う幕間劇やら、ミステリとして悪くないといえば悪くない。 でもね、どこかしら「火が消えた」ような印象を受ける。嫌々書いているような、といえばそう。自分が得意で描きたい場面だけ、俄然筆が乗る。そんなワガママを押し通したような印象。 |
No.2 | 6点 | 蟷螂の斧 | |
(2018/07/05 11:13登録) 刑事プレスコットが休養のため訪れた下宿先で、老人が首吊り自殺に見せかけ殺された。しかし、保安官は事故では?と本気にしない。それが理由とは思えないが、プレスコットは画家のスザンに現を抜かす(笑)。ダンスパーティーでは彼女と踊りたくてたまらないのだが、中々うまくいかない等々。やがて5人が亡くなり、その共通点をプレスコットとスザンの二人で探すことになる。著者の作品でフーダニット(但し本格ものではありません)や格闘シーンがあるのは珍しいのでは?。ラスト、スザンの言葉がおしゃれです。 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2018/06/10 17:20登録) (ネタバレなし) ニューヨークの青年刑事(27~28歳)チャンピオン(チャンプ)・プレスコットは凶悪犯を逮捕する際に銃撃を受けて重傷を負い、二ヶ月入院。退院後の今は一ヶ月の静養生活を送るため、田舎のジョセフズ・ヴィンヤード島を訪れていた。そこでプレスコットは同年代の美しい女流画家で、同じくニューヨーク出身のスザン・マーローと出会う。スザンに心惹かれるプレスコットだが、そんな彼が宿泊予定の下宿に着くやいなや、すでに5年も寄宿している老人アラム・パンションが首つり状態の死体で見つかった! だがそれは縊死自殺を擬装した殺人であるとすぐに判明。やがて事態は連続殺人事件に発展し、プレスコットと島の住民たちは、謎の殺人鬼の恐怖に晒されていく。 1951年の長編。私的に残り少なくなったアイリッシュ(ウールリッチ)の未読作品のひとつで、アタリの長編ももうそんなにないんだろうな……と思っていたが、これが予想以上に楽しめた(嬉)。 まあ、殺人事件が3件以上に及んでもマトモな捜査本部が設置されないリアリティの無さは、いくら50年代作品で舞台が僻地だからって、それはどうなの? というツッコミ感は生じる。さらにはNY出自の青年刑事&ヒロイン>田舎の物わかりの悪い連中という、いかにも「都会派」ウールリッチらしい思わず笑っちゃう人間関係の図式もある。 それでも、それぞれの変死の状況をひとつひとつ検証していくプレスコット(たち捜査陣)の奮闘がハイテンポに語られる一方、冤罪を掛けられて集団リンチに遭いかける頭の弱い若者を彼が身を盾にして助け出すという『ガラスの村』ライクな描写なども登場し、小説としては十分に面白い。 いつものノワール・センチメンタルなウールリッチ節はやや抑え気味だが、それでもロミオとジュリエット的な立場の村の恋人たちの密会場面など、ちゃんと抑えるところは抑えた演出がされている。 まあもともと評者はアイリッシュ(ウールリッチ)の<青年刑事主人公もの>って『夜は千の目を持つ』とか「高架殺人」とか「チャーリィは今夜もいない」とか総じてスキなのよね。作者の書きたい種類の人間味が、公僕の刑事というある種のストイックさを要求される職業のなかでこそ良くにじみ出る感じで。本作にしてもプレスコットとスザンとのラブコメ一歩手前の、古めの少女マンガ的な恋愛模様なんかすんごくいい。 ちなみに自分がこれまで読んできたアイリッシュ(ウールリッチ)作品のヒロインとして、スザンは結構上位に来る感じ(永遠の一番は『喪服のランデヴー』のドロシーで、次席は同じ作品の山場の<あの婦人警官>だが)。後半のスザンがプレスコットの推理と捜査を支える<夫婦探偵モノの女房キャラ>的なポジションにつくあたりなんか、なんかいかにもこの時代のアメリカンミステリらしいヒロインの陽性さで萌える。 しかしさらに作品後半、謎の連続殺人にからむミッシングリンクの謎が表面に出てきて、フーダニットの核となるのも「ほほぅ」という感じであった。いや手がかりの出し方の甘さなどパズラーとしては完璧とはいえないが、一体犯人がどういう動機で殺人を重ねているんだろうか? というホワイダニット。その真相の暗示はちゃんと作品前半から設けられており、こんな丁寧さも好ましい。肝心の犯人の意外性が希薄なのはナンだが、真相発覚後のキャラクタードラマの情感はその辺を十分に補う描写となっている。 ラストの「あー、中学生の頃に読んでおきたかった」と思いたくなるような、実にくすぐったいクロージングもエエ(笑)。 ちなみに本サイトの作品登録で本作は、当方のレビュー投稿前に「 クライム/倒叙 」に分類されてましたが、まったく違います。フーダニット、もしくはフーダニットの興味の強いサスペンスではないかと(手がかりや伏線から真相に至る経緯が少し弱く、スリリングな見せ場も多いので、どっちかと言えば後者か)。 評点は冷静に見れば6点くらいかもしれないけれど、予期した以上にアイリッシュ(ウールリッチ)作品らしかったという喜びも込めてもう1点おまけ。 ※追記(2018/06/11)どなたかが協力して「サスペンス」に投票くださったようで、カテゴリー分類が変更されていました。ありがとうございました。(^_^) |