消え失せた密画 |
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作家 | エーリヒ・ケストナー |
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出版日 | 1954年01月 |
平均点 | 6.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | クリスティ再読 | |
(2022/09/01 09:50登録) 戦前の昔からとくに児童向けで親しまれてきているケストナー。「エミールと探偵たち」そのうちやろうかしら。どストライクの作家じゃん。創元でも怪奇・冒険カテで大人向けが3作品。本作と「雪の中の三人男」「一杯の珈琲から」。 のんきなスパイ小説みたいなノリで、サイレント喜劇を見ているかのような、おおざっぱな「身振り」が楽しい小説。悪役はマンガの悪役らしくトボケた感じでかわいい。ジブリで映画化すれば...という評もあるようだが、ハンナ・バーベラの芸風みたいに感じる。「今日もダメなのよ~」ってね。 内容はお人よしのソーセージ屋キュルツが、中年の危機、でプチ家出をした先のコペンハーゲンで、ホルバイン作のアン・ブーリンの肖像を描いた密画(ミニチュア絵画)の争奪戦に巻き込まれる話。主人公は気のいいオッサンなのがナイス。本物と偽物でいろいろ小細工があって、ミステリ的な興味もわりとある。 でもホルバイン、というからにはこの密画の肖像、色っぽいんじゃないかと思うよ。評者もしっかり読後にはソーセージを頂きました。そんな小説。 |
No.2 | 7点 | 斎藤警部 | |
(2015/07/29 11:10登録) 昔の創元さんでは帆船マーク(怪奇と冒険)でしたが。。これほどしっかりミステリとして構築された作品とは思いませんでしたよ! その濃密なユーモアは現代でも面白おかしく滑稽で、何度もプッと噴き出させていただきました。 主人公はいい年こいて家出した肉屋のおやじ(!) 小さな小さな美術品を巡り、おかしな窃盗団との騙し合い争奪戦と幾ばくかの淡い恋愛要素に旅情(何しろ国境またいで家出してる)まで絡めて、カラフルな物語はサプライズ&ハッピーエンディングまで可愛らしく緩むこと無く進みます。それにしても、ソーセージが実に旨そう。 |
No.1 | 6点 | kanamori | |
(2015/03/06 21:57登録) ベルリンの肉屋の親方キュルツは、旅先のコペンハーゲンで美術品蒐集家の秘書と称するイレーネと知り合う。イレーネから高価な密画をベルリンまで運んでほしいと頼まれたキュルツは、彼女とともに列車に乗るが、彼らの周りには怪しげな男たちが次々と出没し、やがて巧妙な手口で密画が盗まれてしまう--------。 児童文学「エミールと探偵たち」で知られるエーリヒ・ケストナーが1935年に書いたユーモア犯罪小説です。ドイツ人作家とクライム・コメディというのがイメージ的にあまり結びつかない(偏見?)のですが、正直者でお人好しの主人公(というか、狂言回し役)肉屋のキュルツの、とぼけた言動やカンの鈍さが、独特の仄かでまったりとしたユーモアを醸し出しています。 また、スラップスティックな笑いだけではなく、密画を巡るコンゲーム風の争奪戦というプロットも意外としっかりしていて、ある人物の意外な正体やどんでん返しの仕掛けでサプライズを演出しています。物語の冒頭からラストシーンまで牧歌的な雰囲気に包まれているのも好印象です。 |