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ミステリの祭典

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明日の雨は。
改題『教室に雨は降らない』

作家 伊岡瞬
出版日2010年10月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 7点 take5
(2025/06/15 16:26登録)
私、教育関係当事者なので細かいディテールは
おやと思うところもありますが、差し引いても
主人公の葛藤や子どもたちの心理描写は楽しめ
且つなるほどと思うところもありました。視点
それは親と子ら、同僚と主人公で多分に変わり
そこが本作をミステリーとする点でもあります。
他の方の書評から手に取った作品で、作者初読
これから機会があれば、他の作品も試します。

No.2 7点 人並由真
(2025/06/08 16:40登録)
(ネタバレなし)
 あらすじ(というか大設定)は、猫サーカスさんのご紹介の通り。
 改題された角川文庫版(表紙が教室内の図柄の、明るめの方)をブックオフで購入後、しばらくこれを長編作品かと誤認していた。蔵書のなかに未読の伊岡作品がまだあったな、と改めて手に取って、ここで初めて実は連作短編集だったと気づく。目次で全6話の構成と判明。

 中身の方は伊岡作品らしい、人間の陰の部分も弱い部分も見つめたヒューマンドラマミステリで、途中には、意外な真相が明かされたのち、ミステリというよりは普通の学園ドラマっぽい、と強く思えるような話もある。
 ほかの長編ミステリを読む合間に少しずつ消化し、最初の話を読んでから二週間くらい経っていると思う。それでも最後の二編は主人公の去就の面での決着が気になって早めにまとめて通読した。

 そのジャンルとしては少し主人公の年齢が高めの青春ミステリの趣もあり、伊岡作品としては全体的に手堅くまとめた印象。ベストは第4話の「家族写真」。キーパーソンの荻野先生の屈折した(中略)は、正に伊岡キャラの典型だと思える。

 ラストまで読み終えて主人公の森島との別れが少し名残惜しく、その辺はフランシスの各長編のうちシンクロ度が高い作品を読了する時の感慨に似ていた。ただ伊岡作品って、登場人物の運用がかなり自在で器用なので、なんかいつかどっかの伊岡ミステリで、この森島、ひょこっと重要なサブキャラポジションで再登場しそうな気もするが(もうすでに実際に再登場とかしていたら、すみませんが)。

 最後に、角川文庫版の解説があの北上次郎。へえ、こんな作品の解説も書くの、と軽く驚いたが、考えてみれば昭和作品でも佐野洋の諸作とかのマニア読者だし、21世紀に伊岡作品を読んでいても全然、不思議ではない。
 ちなみに解説でその北上が、昔から読んだ作品のことをどんどん忘れるという自分の弱点を白状しており、すでに何冊も伊岡作品を読んでレビューまで商業誌に書いておきながらその事実を忘れていた経緯を説明している。
 自分(評者)も読んできたミステリの冊数ばかりは多いため情報のオーバーフローで印象的なサプライズ(の作品)を数ヶ月もすれば忘れてしまうことなんかはザラだが、北上の述懐の実情(読んだ作品の忘却ぶり)はそれにしてもかなりヒドイものだった。
 以前に晩年の北上が21世紀に犬ミステリのオールタイムベスト10を選んでおきながら、当時あれほど激賞したアルベアト・バスケイス・フィゲロウアの『自由への逃亡』を一顧だにしていないのをかなり呆れたが、今回の解説を読むといろいろ腑に落ちるものがある(汗)。
 以上、伊岡作品とは直接関係のない余談でした。

No.1 6点 猫サーカス
(2021/09/11 18:41登録)
教師が主人公の連作ミステリで、第一話「ミスファイア」は、第63回日本推理作家協会賞短編部門のノミネート作。森島巧は公立小学校の音楽講師。それまで担当だった女性教諭が産休することになり、森島が臨時で入ったのだ。ところが、職員室に乗り込んで教師を糾弾する親にはじまり、陰湿ないじめ、生徒や教師の個人的な悩みなど、次々にトラブルが発生していく。あらすじから、近年の小学校における深刻な問題をテーマにした作品集とわかるが、決してそれだけではない。腰掛け教員として中途半端な姿勢で取り組むにはあまりにも過酷な教育の現場。そこへ23歳の森島が悩みつつ臨む。その葛藤ぶりや成長していく姿に痛く心を打たれる。子供たちに近い視点で教室がとらえられており、生徒や教員の描き方も巧み。

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