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ミステリの祭典

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帰去来殺人事件
荊木歓喜もの

作家 山田風太郎
出版日1983年05月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 5点 nukkam
(2020/09/01 21:03登録)
(ネタバレなしです) 山田風太郎(1922-2001)のシリーズ探偵ミステリーでは一番有名と思われるのが酔いどれ医師の荊木歓喜シリーズでしょう。もっとも長編は「十三角関係」(1956年)の1作のみ、中短編も8作のみですが(もう1作、高木彬光との共作で高木の名探偵・神津恭介と共演する「悪霊の群」(1955年)があります)。1949年から1954年にかけて発表された短編をまとめた短編集は「落日殺人事件」(1958年)が最初ですが7作しか収めていません。「怪盗七面相」(1952年)という短編が、山田を含む6人の作家が怪盗と自作の探偵を対決させる連作短編の1つだったのが理由のようです。全8作を収めた完全版の短編集は1996年と遅い出版でした。現代では差別用語として使用不可と思われる単語が随所に散りばめられ、あまりにも通俗的なので読者を選ぶでしょうがチェスタトンも顔負けの奇想天外なトリックには思わず唸らされます。中編「帰去来殺人事件」(1951年)のまさかのトリックもインパクト大ですし、「落日殺人事件」(1954年)では新本格派の某作家の某作品で高い評価を得ていたトリックを先取りしていることに驚きました(もっとも本書を読んだその後に、某米国作家の1930年代の作品で既にこのトリックが使われているのに気がつくことになるのですが)。

No.2 5点 人並由真
(2020/07/17 03:39登録)
(ネタバレなし)
 1983年の大和書房「夢の図書館 ミステリ・シリーズ」版で読了。
 近年では、荊木歓喜シリーズはその正編の全部が光文社文庫版『十三角関係』にまとめられているとか、さらにその初版と重版のどれかでは所収内容に異同があるとか噂は聞くが、詳しいことはよく知らない。たぶんその光文社文庫版の一番適宜な版を購入していれば、本書に収録の中短編6本全部を読めてさらに長編『十三角関係』も楽しめたんだろうが、数十年前から買ってあった本が先に蔵書の中から見つかったのだから仕方がない。いつか『十三角関係』はどっかで読む(かな)として、まずはこの大和書房版を賞味。

 ……しかし、うーん……。結構キツイわ。いや、ミステリ的にあれこれ面白いことをしているのは分かるんだけれど、この時期の山田風太郎の癖のある、一種の、露悪的ともいえる文章と筋立てが気に障って障って、しょうがない(汗)。
 思えば評者がこれまで楽しんできた山田作品って、ほとんど揃って、後年の筆致がやや落ち着いた(?)明治ものばかりであった。

 中では登場人物のキャラクター(ある部分)が不可能? 犯罪の形成に機能する『抱擁殺人』がスッキリしたミステリで一番スキ。『西条家の通り魔』のちょっとチェスタートン風な流れもなかなか小気味いい。
 一方で、ああ、なんとなくミステリとしての狙いどころはわかる『女狩』、さらにミステリとしてのギミック満載なのは理解はできる表題作とか、さっき書いた意味でホントーにキビシかった(汗・涙)。後者なんかは、蟷螂の斧さんがおっしゃるように、人を食った(人を舐めた?)アリバイトリックなんか良い意味でポカーンで、部分的にはかなりスキなんだけれどね。
 とにもかくにも、個人的なミステリの読書プラン的にも読んでおいた方がいい一冊だったので、その意味でまあよしということで。

No.1 8点 蟷螂の斧
(2014/03/18 10:26登録)
出版芸術社(1996年版)で拝読。表題作+7短編集。『名探偵篇「十三角関係」』(光文社)は左記+十三角関係ですが、2、3版は表題作が削除されているとのことで、別枠で作品名を追加させていただきました。表題作については、動機、犯人像もさることながら、特にアリバイトリックが秀逸であり、中編ではもったいない気がしました。長編だったら最高点かもという感じです。このトリックで、大昔のテレビドラマ「泣いてたまるか」(渥美清、左幸子主演~雪の降る街に~)を思い出しました。ただし、こちらは感動物語です。

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