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ミステリの祭典

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私刑(リンチ) 大坪砂男全集3

作家 大坪砂男
出版日2013年05月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 7点 クリスティ再読
(2021/11/03 12:20登録)
予告通り大坪砂男やります。まずはクラブ賞受賞作の「私刑」を含むこの本から。
大坪砂男と言う作家は一概に作品傾向を言えない人なんだけど、「私刑」とか「花売娘」とかは典型的だし、あるいは「街かどの貞操」や「外套」「現場写真を売ります」あたりまで、この本に収録された作品にはハードボイルドの香りがある。しかし、そのハードボイルドさ、が翻訳小説から来た「ハードボイルド」さ、言い換えるとチャンドラー風の「卑しい街を行く騎士」といったハードボイルド・ヒーロー的なものではないのである。
戦後の混乱した風俗を通じて、価値観がすべてぶっ壊れたその廃墟に立ち、それこそ「堕落しなけばならない!」とアジった安吾風の「戦後精神」を体現して、悪党と娼婦ばかりの世相のヒリヒリするような現実感の中で「土着的なハードボイルド」さを実現しているあたり、かなり重要な作家なのだと思える。
いや「私刑」なんて、ハメットさえも飛び越えて、黙阿弥が描いたような、「江戸の悪党」のハードボイルドさを体現しているかのような、そういう颯爽としたところがある。この人のオリジナリティ、ってそういうあたりだ。日本のマニア評価、というのはどうも「海外のモデルをいかに忠実にホンヤクできたか?」というあたりに重点がありすぎるようで、こういう「土着ハードボイルド」というべき達成には、どうも焦点が当たりづらい気風を感じる。そういうの、拝外主義だと思う。

でも文章、凝ってるなあ....で戦後すぐのスラング多いから、若い人だと読むのが辛そうだ。

No.2 5点 ボナンザ
(2017/10/12 15:20登録)
多彩な作品を集めた第三集。表題作は軽い叙述トリックを絡めた良作。
前二冊に劣らない内容。

No.1 6点 kanamori
(2013/07/12 17:41登録)
創元推理文庫版全集の3巻目。いちおう<サスペンス編>という括りがありますが、戦後混乱期を時代背景とした無頼漢小説や昭和人情話風のクライム小説を中心に、ホラー幻想風、犯人当てパズラー、西部劇&スリラー映画のノベライズなど、かなり幅広い様々なジャンルの作品が収録されています。

探偵作家クラブ賞受賞の表題作「私刑」は結末にちょっとしたヒネリがある無頼漢小説ですが、物語そのものよりも一人称形式での叙述の技巧が楽しめる作品。これをトリックとして使用せず単に読者を翻弄するだけのものになっているのがいかにも作者らしい。こういった遊び心は、弟子だった都筑道夫の前衛的な初期長編群に通じるような気がする。
ほかに、”病院横丁の首縊りの家”の大坪ヴァージョン「ある夢見術師の話」、ホラー幻想譚の秀作「男井戸女井戸」、「花売娘」などが印象に残った。

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