ルパン、最後の恋 怪盗ルパン |
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作家 | モーリス・ルブラン |
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出版日 | 2012年09月 |
平均点 | 6.33点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | 小原庄助 | |
(2017/11/09 09:41登録) 知性の権化のようなシャーロック・ホームズと違い、洒脱なる言動に激情を秘めたルパンの冒険は、謎とロマンに満ちた壮大な舞台設定が真骨頂。 この作品も、英仏帝国にまたがる国際的陰謀から高貴なヒロインを救うべく、縦横無尽の活躍を見せる。強きをくじき弱きを助ける”義賊魂”も枯れていない。 ただ、そんな生き方に「もう飽き飽き」と語り、疲れを感じさせる場面も。スラムの子供たちを励まし、教育を通じた社会改革を熱く語る姿は、「奇岩城」「813」の彼とは明らかに異質。 訳者あとがきには、手書きの推敲が残る約160枚のタイプ原稿がお蔵入りとなった後、自宅クロゼットにしまい込んだ孫娘が、解禁するまでの経緯も綴られ、興味深い。 |
No.2 | 6点 | りゅうぐうのつかい | |
(2016/08/28 20:10登録) ハヤカワ・ミステリ文庫では、ルパン・シリーズの未発表作品だった「ルパン、最後の恋」、ルパン・シリーズの第一作「アルセーヌ・ルパンの逮捕」の初出版バージョン、作者自身によるエッセイ「アルセーヌ・ルパンとは何者か?」、「訳者あとがき」、バーネット探偵社の未収録作品「壊れた橋」が掲載されている。 「ルパン、最後の恋」 ルパンと令嬢コラのラブストーリーを絡めながら、物語は進行していく。ルパンの父親であるルパン将軍にまつわるエピソード、レルヌ大公の自殺とその遺書の内容、金貨400万ポンドの盗難事件、さらわれたコラと金貨の追跡劇、ジョゼファンとマリ=テレーズによる尾行、レルヌ邸での捕獲劇、真の犯人との対決、最後の決断など、ルパン・シリーズらしいスピーディーな展開。追跡劇でのルパンの意外な登場の仕方や、事件の背景にある真の犯人の存在とその思想対決など、楽しめる要素もある。しかし、「訳者あとがき」にもあるように、展開が唐突すぎて、推敲不足という印象を強く受ける。恵まれない子供たちのために力を尽くす教師であったり、資金難に苦しむ科学者のパトロンであったり、「わたしの夢は、世界平和を打ち立てる助けになること」と発言するなど、新たなルパン像を示している点が興味深い。最終章で、ルパンは一大決心をする。 「アルセーヌ・ルパンの逮捕」 ミス・ネリーが最後に取った行為が印象的であり、謎でもある。 クルスティーの某有名作品のトリックを先取りしていると言える作品ではないだろうか。 「アルセーヌ・ルパンとは何者か?」 処女作の発表経緯、ポーに影響を受けたこと、主人公を泥棒とするうえで心掛けたこと、ホームズとの違いなどが書かれている。 「壊れた橋」 2つの家をつなぐ橋から老人が転落して、死亡。その橋には、のこぎりで切れ目が入れられていたという事件。フーダニットとホワイダニットの問題で、事件の様相が最後に反転するのが面白い。バーネットは相変わらず、ちゃっかりと私腹を肥やしていた。 |
No.1 | 7点 | Tetchy | |
(2013/06/18 19:37登録) 21世紀になってルブランの伝記を著したジャック・ドゥルアールの調査によって発見されたタイプ原稿が本書『ルパン、最後の恋』。正真正銘のルブランの手による最後のルパン物語だ。なんと作者ルブラン没後70年経ってからの発表である。 そしてその物語は何ともロマンティック。これだよ、これがルパンだよとかつてルパンシリーズを読んで胸躍らせた読者の期待を裏切らない展開の速さとルパンという男の懐の大きさに満ちている。 本書はやはりルパンの人生の終の棲家を得るための最後の恋物語というのがメインなのだが、それを通奏低音としながら本来の物語はコラ嬢へイギリス王侯が贈った400万ポンドの金貨とコラ嬢自身を巡っての悪党とルパンの攻防戦という図式。しかしそれにはあるバックストーリーがあって…。 しかしそんな策略もルパンに掛かれば全てが最初から露呈しており、ルパンはことごとく相手を先んじては左団扇で敵を出し抜いてしまう。 かつてのルパン譚には彼の万能性を以てしても窮地に陥る難事件と云うのが数多くあったが、それに比べれば今回の敵は彼にとっては掌上の何とやらで、実に容易い相手であった。 しかも彼には世界中に彼を慕う部下が何千人とおり、無尽蔵とも云える財産もあるが、イギリス側の敵と対峙するのはルパンと飲んだくれの親から引き取った才気煥発な兄妹2人という人員構成。そんな手薄な人員でイギリス政府からの刺客を撃退するのだから、ある意味胸躍る活劇を期待する分にはいささか物足りなさを感じるかもしれない。 さてルパンが怪盗でありながら、実はフランスと云う国をこの上なく愛しており、国のピンチであればスパイのように他国へ侵入して自国への害を未然に防ぐことを厭わないヒーローであると最近のルパンに纏わる書評で読んだ記憶があるが、本書ではルパン自らが愛国者であることを宣言している。そして残りの余生を世界平和に役立てるために私財を擲つとまで述べている。ルパンは元々アンチヒーローとして生まれたが、最後となる本書ではルパンがヒーローであることを作者が強調していたのが興味深かった。 |