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ミステリの祭典

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天狗 大坪砂男全集2

作家 大坪砂男
出版日2013年03月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 6点 クリスティ再読
(2021/12/06 21:33登録)
とにもかくにも「天狗」。何はなくても「天狗」。戦後の大名作短編の一つ。ミステリと幻想小説のマニアなら、これを知らないと恥ずかしい級の名作。文庫でわずか15ページ。でも一生心に突き刺さるナイフのような作品。
今でいえば理不尽なストーカー殺人なんだけども、そういう狂気というのが実は極めて明晰な論理性だ、というの描き切って、ギリギリと締め付けるような論理の果てに、鮮やかな花が咲くように「詩としての殺人」が顕現する。実に見事。
リスペクトを示すために、冒頭を引用しておく。

黄昏の町はずれで生き逢う女は喬子に違いない。喬子でなくてどうしてあんな素知らぬ顔をして通り過ぎることができるものか。

「声に出して読みたいミステリ」の筆頭格の名調子である。

あとの作品は、蛇足。そこそこ、といった程度。だけど、本当に「天狗」風のテイストの作品って、まったく書いていない、というのが面白いところ。「生涯の1作」に処女作で当たってしまう作家って、幸福なんだろうか、不幸なんだろうか?
「天狗」だけなら10点。

No.2 5点 ボナンザ
(2016/05/14 16:56登録)
他の作品も悪くはないが、やはり「天狗」はずば抜けている。
時代編も中々興味深いが、この全集に入れる必要はあったのか・・・。

No.1 6点 kanamori
(2013/05/12 12:03登録)
薔薇十字社版を増補した創元推理文庫版の大坪砂男全集第2弾。本書は奇想編と時代編に分けられている。

大坪砂男といえば、世評が高いデビュー作の「天狗」一作で知られる作家という一般的な評価があるようで、たしかにこの主人公の奇想天外な殺人トリックと偏執狂的な人物造形は異様でありながら、ブラックユーモアも感じさせる奇妙で記憶に残る作品。
ただ、他の作品は奇想という点では前巻ほどの派手さはなく、「盲妹」や「花束(ブーケ)」など、男女の微妙なひだを描いた心理小説が多い印象を受けた。
時代編では、山風忍法帖を思わせる「密偵の顔」が面白い。

小説以上に興味深かったのは、弟子だった都筑道夫のエッセイで、大坪が柴田錬三郎にプロットを売っていたというエピソード。「幽霊紳士」はともかく「眠狂四郎」もだったとは・・・・。

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