オイディプスの刃 |
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作家 | 赤江瀑 |
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出版日 | 1974年01月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | みりん | |
(2024/08/14 01:02登録) 研師と調香師というニッチな世界のお話が主軸として存在する。また、中井英夫(赤江瀑ファンらしい)よろしくゲイバー、すなわち同性愛であったり、オイディプス王モチーフの母親への執着心であったり、一般人にはよくわからん世界のオンパレードである。が、妖刀に幻惑される描写や破滅を齎すラベンダーが香る描写などで「んなアホな」とはならないのが、著者の卓越した筆力を感じさせます。 1番気に入ったのは雪景色と鮮血のコントラスト。幻想文学とまではいかないけど、芸術家肌(ちなみに刀≠芸術らしい笑)で耽美性を求める方には刺さると思います。 母親とその不倫相手を両方愛してしまうとか、ミステリというより純文学やねこれは。もう深淵すぎてよく分からん。うん。 あと現代感覚からすると作品内の関西弁は違和感しかないが、1974年の作品と知り、こんな感じだったのかなと(?) |
No.2 | 8点 | クリスティ再読 | |
(2016/06/12 00:32登録) 7・8年前、赤江瀑にはハマって最終的に全作の半分程度は読んだことになる。まあこの人、ミステリから明白に地続きなところに領域があるわけだが、ミステリかというとかなり怪しい。宿命や情念・妄想はあるが、超常現象はほとんどないので、怪奇・幻想小説にもならないし、およそジャンル分けしづらいタイプの作家の上に、本質的に短編作家である。長編はとりとめない感じになるか、「長い短編」でしかなくて長編小説を読んだボリューム感に欠けるか...で、これといった名作はない(それでも長編は本作か「ガラ」か「上空の城」あたりがイイと思う)。中井英夫とか戸川昌子が持ち味の近い作家だが、これらの人だと「誰がどう見てもミステリ」な長編代表作があるから何やかんやと論評しやすいのだけども、赤江瀑にはそういう便利な作品はない...いろいろな出版社から「名作選」のかたちで無秩序に本が出てた....がそれらも品切れ絶版のようで今現役の本はなさそうだ。うん、本当に本サイトで扱いづらい作家だなぁ。 それでも本作は角川小説賞を受賞した出世作のこともあって、知名度はイチバンだろう。映画化されてる(なぜか評者の大リスペクトのカメラマン、成島東一郎が監督してる..)。ただ、文章はいかにも若くてちょっと苦笑するところもある。撥音で終わるのは小池一夫みたいで70年代後半だっ。で、本作のイイところ、というのはこういうところ。 母は、一本の日本刀を、香水に表現しようとしていたのだ。香水で、一本の日本刀を、つかまえようとしていたのだ。 香水と日本刀が等価になるような、こういう想像力(シュールな奇想の部類だ)の切れ味なんだよね(刀のかたちをした香水の瓶で切腹する..おいおい)。で香水でも日本刀でも、かなりマニアックな分野になるわけだけど、ここらへんのマニアックなネタをうまく使ったハッタリの良さ(他の小説だと、バレエありサーカスあり能楽・歌舞伎・陶芸・灯篭・造園 etc,etc..)とどこまで知識があるのか不思議なくらいのもので、まあハッタリも作家の実力のうちだから野暮はいいたくない。あと、今市子がエッセイ漫画で描いてたが、耽美小説として読む人も多いようだ。本作主人公もゲイバーのマスターだし、研師に対する執着はそういうことだしね... まあというわけで本作の評価は本当はオオマケして7点なんだけど、評者が大好きな本当にイイ短編の分を1点プラスしてる。この人の傑作短編は、本来の短編集はとっくの昔に軒並み絶版だから、乱歩みたいに短編個別で立てるしかないが、まあそこまでの需要があるかというと難しいからね。評者の短編のオススメは「罪喰い」「海贄考」「花夜叉殺し」「獣林寺妖変」「現生花の森の司」あたり。 |
No.1 | 7点 | 蟷螂の斧 | |
(2013/03/09 20:24登録) 「東西ミステリーベスト100」の92位。本サイトに登録されていないのが驚きです。読後の印象は、なんともすさまじい小説だなあ、ということでした。刀研ぎ師が自殺?又は殺害され、その後に主人公の母親が自害、その後父親までが割腹自殺というものです。両親は、三兄弟のうち誰かが刀研ぎ師を殺害したものと思い自害した。三兄弟の言い分はそれぞれ違っており、まるで「藪の中」(芥川龍之介)の世界です。謎は①刀研ぎ師が残した言葉「少し苦しい。でも好きだ。」②誰が刀研ぎ師を殺したのか?ですが、ミステリー的解決を前面に出していない描き方で、刑事も出てきません。三兄弟の名刀「次吉」に翻弄される姿、並びに「香水」にまつわる兄弟の葛藤を中心に耽美的に描かれています。①の謎の真相はお気に入りですが、ミステリーの分類は難しいので「その他」としました。著者は、昨年6月に79歳で逝去されました。ご冥福を。 |