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ミステリの祭典

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立春大吉 大坪砂男全集1

作家 大坪砂男
出版日2013年01月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 7点 クリスティ再読
(2022/01/01 18:13登録)
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
...にふさわしい作品って、ことミステリについては難しい。けど今年はコレ。「立春大吉」なら、新年にふさわしいってもんでしょう(苦笑)

創元の大坪砂男全集でも一番パズラー寄りのセレクトの巻。大体読んでる作品なんだけども、改めて読むと一種の「不器用さ」を感じるのが面白い。いや小説は実に達者なんだけども、その達者さをうまく生かし切れていない歯がゆさがとくにこの巻はつきまとう。当初自身の鑑識課員の経歴を生かした名探偵緒方三郎を作ってはみたのだけども、何か動かしづらいキャラになっている。「科学探偵」は大坪の鑑識知識が生きていていいんだが、「赤痣の女」はそれがうまく小説になっていない...困る。要するにこの人、フォーマットに従って書くとダメなんだ。
「三月十三日午前二時」は物理トリック以上に、女性心理を狙ったあたりが面白いから、因果話が因果話でオチる、というのがいいのか悪いのか?「大師誕生」はヘンな小説だけど、取っ散らかり具合がどっちかいえば魅力。ヘンにオチがついて中途半端になっているのでは。メタ小説を狙った「黒子」は論外。こういうの、書いちゃいけない。
としてみると、この短編集でも「成功しているよね」と思うのはやはり「立春大吉」と「涅槃雪」ということになりそう。両方とも「語り口」の工夫がいいあたりで、「立春大吉」の主人公の愚痴っぽさとか、「涅槃雪」の連歌で友情を示すあたりとか、そういうのが印象に残る。語り口の中にトリックがさりげなく埋め込まれている、という風情がこの人らしさなんだろう。

としてみると、一番大坪が「書きやすかった」のは、第3巻の風俗ミステリのあたりだったような印象がある。「私刑」とか「花売娘」とかがのびのび書いている「大坪らしさ」じゃないのかな。「天狗」は例外中の例外、だよ。

No.2 6点 ボナンザ
(2017/07/04 22:13登録)
2巻に納められた天狗をしのぐ作品こそないものの、全体の水準はこちらが上。様々な趣向の本格短編が楽しめる。

No.1 7点 kanamori
(2013/02/15 11:49登録)
高木彬光や山田風太郎らとともに、江戸川乱歩から”戦後派五人男”と称された鬼才・大坪砂男の初の文庫版全集。全4巻(予定)の1巻目の本書は”本格推理編”です。

戦後の混乱による男女間の悲劇を心情描写を中心に語る抒情的文体と、密室殺人・足跡のない殺人や実現性の薄い機械的殺人トリックといったコテコテの本格趣向が融合した作風が作者の持ち味のようで、そういった作品に印象に残るものが多かった。
「立春大吉」「涅槃雪」が篇中の代表作かなと思いますが、旧家三代の女性が時を経て、同日同時刻に庭の古井戸で変死するという魅力的な謎の「三月十三日午前二時」が結構好み。シリーズ探偵役・緒方三郎が往復書簡形式で謎解きをする構成も良。
高野山の寺で龍が昇天し、骨壷が鳴り中から赤子が出てくるといった奇想が連打される「大師誕生」は、バカミス度合いが小島正樹を連想させるw
その他では、作者がダメだししながら物語が進行するメタ構成の実験作「黒子」、ブラウン神父ものの贋作「胡蝶の行方」なんかも印象に残りました。とくに後者の”ホワイ”が秀逸です。

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