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ミステリの祭典

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聖女の島

作家 皆川博子
出版日1988年08月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 7点 虫暮部
(2023/09/22 12:57登録)
 倉橋由美子『スミヤキストQの冒険』みたい。後年の作品を引き合いに出すなら麻耶雄嵩『夏と冬の奏鳴曲』?
 凡庸な大人達が残酷なまでに書き込まれている一方、少女側のキャラクターに際立った書き分けが無くて物足りない気はする。しかしこれが “聖女” 側の物語だとすると、暴動しようが心中しようが少女達は所詮一山幾らのモブなのだろうか。漂白したかのような雑味の少なさが、この作者の場合はプラスに働くね。

No.2 6点
(2021/03/20 13:09登録)
 砲弾に打ち砕かれて坐礁し、そのまま化石となった巨大な軍艦のように見える島に作られた矯正施設。そこには売春、盗み、恐喝等の非行を重ね、幼くして性の快楽を知った放恣な少女たちが修道会の御名の下、惨劇の幻影におびえる園長に育まれる為集められていた。そしてあの悪夢がまた、再び・・・・・・。謎と官能に満ちた、甘美な長編恐怖小説。
 1988年夏講談社ノベルスの一冊として刊行された、著者の第23長編。北方謙三『渇きの街』と共に第38回日本推理作家協会賞に選ばれた『壁・旅芝居殺人事件』(他の候補作は島田荘司『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』、船戸与一『山猫の夏』ほか)や、第95回直木賞受賞の『恋紅』(他の候補作は逢坂剛『百舌の叫ぶ夜』、泡坂妻夫『忍火山恋唄』ほか)など、各賞受賞ラッシュのキャリア中期に書かれた作品で、彼女の最高傑作とされるもの。軍艦島モデルの孤島を舞台に、ジョヴァンニ・バティスタ・ピラネージの銅版画『幻想の牢獄』及び西条八十の『砂金』所収詩「トミノの地獄」を主要モチーフとして繰り広げられる幻想綺譚です。
 崩れた壁やねじ曲がった鉄骨といった、採鉱場跡の荒寥たるオブジェの中にそそり立つ、三棟の建物や礼拝堂。廃墟の中の更生施設に住まう、三十一人の非行少女と八人の職員たち。そして彼らに向かって空疎な理想を唱え続ける園長。このシチュエーションの時点でもう半分勝ったようなものですが、この牢獄を思わせる施設で火災が発生、ホームが焼け落ちたとの連絡を受け、本土の修道会から修道女(マ・スール)と呼ばれる女性が派遣されます。
 物語の前半は彼女の視点、後半は園長・矢野藍子の視点で描かれるのですが、到着したマ・スールへの藍子の説明は要領を得ない。彼女が溺れ死んだと言った子供たちは一人も欠けていなかったり、そうかと思えば死んだ筈の三人は誰と誰なのかを把握していなかったり、全てが曖昧なまま取り敢えずホームは建て直され、マ・スールの容認の元、再びここで新たな生活が始まります。とは言え、こんな環境下で物事がめでたしめでたしで済むハズもなく。
 そうして徐々にページを捲っていくと「うーん」。後半悪意を剥き出しにしていく子供たちの描写はこの人らしくて良いんですけど、いけないのは半分ネタが割れた状態なのにいちいち説明し過ぎな事。藍子の章に入ってからの露骨な展開や、ラストでのマ・スールとの対話は明らかに勇み足なので、もう少し暈し気味に終わらせるほうが余韻があったのではと思います。ファンの方には申し訳ないですが、「花の旅~」も含めてちょっと苦手な作家さんですね。晩年の大作『死の泉』や、このサイトでも評価の高い『開かせていただき光栄です』に期待しましょう。

No.1 5点 蟷螂の斧
(2012/09/30 10:43登録)
修道会により孤島に建てられた強制施設。31人の少女が暮らしてたが、3人が死亡し、ホームは火事となる。しかし、28人のはずがどう数えても31人いる。修道女(園長)のもとへ、マ・スール(女性)が助けに現れる。幻想的な文学の香りが漂い、雰囲気はなかなかのものです。ただし、ミステリーとしては?マークでした。

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