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ミステリの祭典

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鮫島の貌 新宿鮫短編集
新宿鮫シリーズ

作家 大沢在昌
出版日2012年01月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 8点 Tetchy
(2014/02/02 17:22登録)
「鮫島の貌」とはよく云った物だ。ここにはそれぞれの時代の、また関係者からの視点での、本編では描かれなかった鮫島の肖像がある。

特に他者から見た鮫島の印象が興味深い。どのグループにも属さず、どこか超然として物事を見ている男。鮫島の内面が書かれないだけに彼の精神性はそれら他者の目から見た内容でしか推し量れないが、欲よりも信念を、愛よりも信義を重んじる昔の男といった趣がある。特に「再会」では鮫島の父親の職業が新聞記者だったことが明かされ、その生き様が今の鮫島の行動原理となっていることが暗に仄めかされている。10作のシリーズを全て読みながらも改めて鮫島と云う人間を再認識した次第だ。

また恐らくはファンサービスに過ぎないのだろうが、鮫島の数少ない理解者である鑑識の藪が『こち亀』の両津と幼馴染だったという驚愕の事実が知らされる。この辺りは苦笑するしかないのだが、本編ではほとんど語られることのなかった藪の素性が色々語られて興味深い。実家が病院で次男坊であり―名前が英次(ひでじ)なのも初めて知った。ちなみに兄の名前は英道らしい―、医学部に合格できずに警察官になったことなどが両津の口から明かされる。

その中で個人的ベストを選ぶとすれば「雷鳴」、「再会」、そして「霊園の男」になろうか。先の2編には鮫島の犯罪者を改悛させる度量の大きさが感じられ、しかも自分を律する芯の太さを感じさせる。さらにはサプライズまで仕掛けているという名編だ。「霊園の男」はやはり『狼花』で壮絶な最期を遂げた間野が鮫島に遺した言葉の真相が、鮫島の魂の救済として語られる、非常に清々しい結末だからだ。
他にもシリーズの前日譚とも云える桃井の男気が光る「区立花園公園」やチンピラに成り下がった家族を持つ人間が謂れなき被害を受ける結末が苦い「亡霊」や異色な味わいのある「五十階で待つ」なども捨てがたい。

とにかくどれも30ページ程度の分量ながらもこれほど読み応えの深い短編集もない。この短編集はシリーズの22年間の熟成の結晶だ。その味わいはまさに22年物のウィスキーに匹敵する味わいを放っている。

No.2 7点 E-BANKER
(2012/04/01 16:35登録)
ゾロ目666冊目の書評は、大好きなシリーズの最新刊で。
「新宿鮫シリーズ」初の短編作品集。
短編になっても、やっぱり鮫島は鮫島なのだが、本作では超意外なあの人たちもゲスト出演(!)

①「区立花園公園」=新宿署に異動したばかりの鮫島が登場。そういう意味で、本作は「新宿鮫エピソード1」的な位置付けかも。とにかく、今は亡き桃井警部の雄姿が読めて、それだけでもうれしくなった。
②「夜風」=①に続いて悪徳警官が登場し、鮫島と対決。ヤクザと警官は紙一重とはよく言ったものだ。
③「似たものどうし」=本作ではさるマンガで有名な「あのキャラクター」がなぜか登場。しかも鮫島と知り合いの様子。でも、なぜ知り合いなのかは全く不明・・・(モッ○リはしなかったのか?)
④「亡霊」=死んだはずの男が新宿の街をうろついている・・・まさに「亡霊」かと思いきや、真相は?
⑤「雷鳴」=これはラストの捻りが効いている秀作。お得意のヤクザの抗争をネタに意外な真相がラストに用意されている。
⑥「幼馴染み」=③に続いて超意外な「あの人物」がなぜかゲスト出演。しかも、なぜか藪鑑識員の幼馴染みとしての登場・・・舞台が浅草で警察官といえばこの人でしょう。そう「両○○吉」(!)
⑦「再会」=鮫島が高校の同窓会に出席。これ自体も珍しいエピソードだが、元クラスメートとして登場する視点人物にはある秘密があって・・・鮫島のカッコよさが引き立つ。
⑧「水仙」=鮫島に協力を申し出る1人の美女。その美女のおかげで、凶悪犯を逮捕できたのだが、彼女には大きな秘密があった・・・
⑨「五十階で待つ」=新手の詐欺事件に引っ掛かる半端者たち。ラスト、鮫島に真相を知らされた感想は「なーんだ」。
⑩「霊園の男」=「新宿鮫Ⅸ~狼花」で華々しく散った「間野」。彼の墓参時に会ったある肉親。ある意味好敵手だった男の死は鮫島にとっても一抹の寂しさを誘う・・・

以上10編。
「新宿鮫シリーズ」には独特の雰囲気があり、それが鮫島のキャラクターや新宿・歌舞伎町の雰囲気と何とも言えない相乗効果を生み出している。
本作は、短編としても短めの作品が並んでおり、1つ1つはいつもより薄味なのだが、逆に鮫島のいろいろな一面が窺えて、ファンとしては面白く読むことができた。
ただ、やっぱり本シリーズは長編が読みたい。序盤からヒリヒリしたような緊張感、そして中盤から一気に加速して終盤に突き進んでいくスピード感。そして、何とも言えない余韻の残るラスト・・・
これこそが20年経っても色褪せない「新宿鮫」の魅力だろう。
(しかし、まさかあんなキャラクターを出してくるとはねぇ・・・懐深いわ!)

No.1 6点 kanamori
(2012/02/19 17:55登録)
新宿鮫シリーズ初の短編集。長編での流れがあるので、短編はどうしても外伝的エピソードになりますねぇ。
鮫島視点の物語と、上司の桃井、恋人の晶、"バーテン”などの第三者視点の話を交互に置き、”鮫島の貌”を浮き彫りにしていく構成になっています。

もともとの掲載誌の関係で、漫画(アニメ)の主人公とのコラボといった軽めのものもありますが、「雷鳴」「再会」「水仙」なんかは、鮫島の刑事としての鋭い感性が発揮された”ミステリ趣向”充分の好編でしょう。
あと、名前のせいで医者になるのをあきらめたという鑑識の藪の真実が、”こち亀”の両さんに暴かれる「幼な馴染み」が楽しい。「狼花」の後日譚である「霊園の男」など、シリーズ・ファンでないと話が見えてこない作品もありましたが。

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