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ミステリの祭典

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コルト拳銃の謎
ジョニー・フレッチャー&サム・クラッグ 別題『海軍拳銃』『コルト拳銃』

作家 フランク・グルーバー
出版日1957年01月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 6点 弾十六
(2022/02/08 22:30登録)
1941年出版。ジョニイ・フレッチャー&サム・クラッグもの第4作。ポケミス『海軍拳銃』で読みました。中桐雅夫さんの翻訳は安心して読めます。
グルーバーはほぼ初めてだと思う。短篇は読んでいるかも。今回の舞台はシカゴ。たくさん通りの名前が出てくるが、クレイグ・ライスの諸作で読んだことがあるようなものが多く、きっとほとんど実在のものなのだろう。足跡を辿るのも面白そうだが、今回はパス。全然調べていません。
スピーディな意表を突く展開はE・S・ガードナーばり。ユーモア感を考慮するとむしろA・A・フェア風か(本作に登場する探偵はパロディかオマージュなのかも)。人物描写も生き生きしていて、場面に合ったちょっと面白いキャラが次々と出てきて飽きさせない。でもESGと同様、立ち止まって考えると色々ヘンテコなところがありそう。まあ、つべこべ言わずに楽しければ良い。ESG同様、読後は内容をほぼ覚えていないような作品。私は寒そうな情景がとても印象に残ったが…
以下トリビア。
銃はタイトルになった1851 Colt Navy Revolver、この銃については日本語Wiki「コルト M1851」にも詳しいが、36口径とあるものの実際は直径.375〜.380インチの弾丸を発射するもの。本書に出てくる「船の絵(p38)」とはシリンダーに描かれた線描の帆船のこと。この絵はColt 1851 Old Model Navy - NEW YORK ADDRESS FACTORY ORIGINAL, HIGH CONDITION, CASEDで検索すると出てくるHPの写真7枚目が見やすい。本書ではある有名人が持っていたものという設定だが、史実でもその有名人がこのモデルを使用していた、という証言があるが、実際には生涯に同じモデルを数丁使っていたようだ。なお本書のシリアルナンバー4V66-73は実際には存在しないもの。実銃のシリアルはアルファベットなど付かないただの数字のみ。フロンティア・モデル(p37)の意味が翻訳からはよくわからない。
「海軍拳銃かフロンティア・モデルなら20ドル」と言っておいてすぐ後で「フロンティア・モデルは1ダース10セントだ」と話している。The Colt Frontier Six-Shooter(SAAの.44-40ヴァージョン)のことだろうか。こっちはレアな銃のようだが、後ろの「1ダース10セント」の方はColt M1878(別名Frontier, Double Action Army)という違う銃のことだろうか。
他に「こぎれいな二五口径の自動拳銃」も登場するが候補は沢山ある。(Colt M1908 Vest Pocketなど)
女優の名前がp17とp159に出てくる。このうちへディ・ラマーは、この名前に改名し、有名になったのはAlgiers(1938年8月公開)なので作中年代はそれ以降だというのは確定。
価値換算は米国消費者物価指数基準1939/2022(20.06倍)としておこう。$1=2287円。
p7 コーヒー代に10セント
p10 シカゴの電車代は一人7セント
p11 ブザー仕掛け◆集合住宅の名札の下のボタンを押すと、住人はブザーで来客があったのを知り、住人が室内でボタンを押すと、玄関でブザーが鳴り、来客は住人が中に居るのがわかり、そのブザーが鳴っている間は表玄関の鍵が外れる仕組み。丁寧な訳注がわかりやすい。
p11 自動エレベーター◆エレベーター・ボーイがいないので、自分でボタン操作するやつ。
p15 日本が買い溜めしてるんで、屑鉄は60セントも値上りだ
p19 一週間分の8ドル◆安宿の宿泊費
p21 本代の2ドル95セント◆コンビの飯の種『あなたはサムソンになれる』の値段。結構お高い。
p22 コンビーフのハッシュとコーヒーとロールパン… 一つにつき25セント◆簡易食堂の値段
p30 並んでいる公衆電話室… 5セント白銅貨を投入口に入れ、電話番号を回した
p32 ダイキリ一つとスカッチ・ハイボール二つ… 3ドル32セント、税込み◆カクテル・ラウンジの値段
p33 ドラッグ・ストア… 電話室
p35 レイルロード・タイで1枚1ドル位のもの
p40 四十セントずつでビフテキの晩餐◆レストランで食事
p41 予約席2ドル20セント、一般席1ドル10セント◆レスリングの興行
p52 いい部屋… 10ドル位の◆シカゴの高級ホテル、ポッター・ハウスの料金
p53 半ドル◆ホテルのボーイへのチップ
p54 前に1000ドル紙幣を見たことはなかった
p57 一足1ドル35セントの絹靴下
p62 “犯罪雑誌”
p69 人殺しのピストル◆このピストルを持った人が取り憑かれて人殺しになる、っていうサムが思いつくアイディアは、人並由真さまに教わった都筑原案の連作コルト・サラマンダーの由来かも(本書の解説も都筑道夫)
p71 一日25ドル◆探偵の料金
p72 数えてみたら、この町には私立探偵事務所が146あったよ
p72 ムッソリーニがヒトラーを必要としているように◆実歴史だと1937年以降の雰囲気。それ以前はヒトラーはムッソリーニに憧れていたが、ムッソリーニはヒトラーを嫌っていたらしい。
p90 サイズは15半◆Yシャツのサイズ
p92 十セントのチップ◆タクシー運転手に。なお経路はポッター・ハウス近くの美術館からウィンスロップとエインズリの角まで
p98 “家庭と園芸”… “サタデイ・イヴニング・ポスト”… “美しい宝石”◆いずれも雑誌
p98 一語2セント、写真1枚に5ドル◆“犯罪雑誌”の原稿料。実話系なので写真の料金も提示されているのだろう。
p108 “告白雑誌”
p108 半専用のバス付き… 前金で一人につき75セント◆ホテル代。なお半専用、というのはフロアに一つしかない共用の浴槽だかららしい。ジョニイが戸惑ってるので、こういう用語がある訳ではなさそう。
p128 六ドル五十セント◆長距離電話の料金
p140 四十セント◆セント・ポールからウィスコンシン州ハドソンまでのバス料金
p148 七ドル五十セント◆メドフォードからシカゴまでのグレイハウンド・バスの料金
p149 二十セント◆朝食
p151 ウエスタン・ユニオン◆メッセンジャー・ボーイの事務所
p167 週四十ドル◆社長秘書の給与、月額換算で40万円。
p178 四千ドル◆1876年の農場の値段。当時は6分くらいの利子を期待できたようだ。
p178 紙幣は少なくとも2/3以上ないと新しいのととりかえてくれない

No.2 5点 nukkam
(2017/12/12 10:17登録)
(ネタバレなしです) 1941年発表のジョニー・フレッチャー&サム・クラッグシリーズ第4作のユーモアハードボイルドです。このコンビはいつだって生活苦がつきまとうのですが、特に本書では上手く大金を稼ぐ場面もあるけれど次から次へと金を支払う羽目になってその自転車操業ぶりが印象的です。厳冬の寒さが身にしみてもいるのですが、それでもこの作者ですからそれほどシリアスには感じませんけど。ある人物をこらしめてほしいと(もちろん報酬付きで)依頼された2人が成功の証拠としてコルト拳銃を奪い取るのですが、これが殺人事件の凶器らしくなったことから(そして当然2人は容疑者となります)どたばたが始まります。しかもこの拳銃、実在した伝説のガンマン、ジェッシイ・ジェームズ(1847-1882、世界初の銀行強盗犯だそうです)の遺品らしいことからプロットがますます複雑化し、さらには13章で作中作まで登場します(何と執筆者はサム・クラッグ)。それでも軽快なテンポでどんどん読ませます。犯人当て本格派推理小説としても読めますが推理が粗いのは残念(事前の手掛かりが不十分)。それもこのシリーズらしいのではありますが。

No.1 6点 kanamori
(2012/06/10 22:05登録)
怪しげなボディ・ビルの本のセールスで米国中を旅してまわる香具師コンビが活躍する軽ハードボイルド調のユーモア・ミステリ。本書は、早川版でも「海軍拳銃」のタイトルで訳出されており代表作らしい。

口八丁手八丁で頭脳派のジョニー・フレッチャーと、生きた商品見本で肉体派のサム・クラッグの凸凹コンビの漫才風のやり取りで笑いを取りながら、意外と本格ミステリのツボを押さえたプロットになっています。
ホテル代も払えない金欠状態から引き受けた仕事が原因で殺人事件に巻き込まれ、やむなく真相解明に乗り出すのですが、状況が変わる毎に目まぐるしく二人の財政状態が変動していくのが可笑しい。

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